負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

木枯し紋次郎 第三十八話「上州新田郡三日月村」 初回放送日1973年3月31日

さらば紋次郎!そして新たなる旅立ちへ

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<上州を旅する道中、落雷に打たれ、意識不明となった紋次郎。目覚めるとはからずもそこは、因縁の生地、上州新田郡三日月村だった。石切り職人の与作、そして通りがかりに紋次郎を助けた孫のお市が暮らす小屋で介抱される紋次郎だったが、そこへやってきた名主の徳左衛門から、村に引き水の資金として預かった千五百両もの大金があること。そして、泥亀の一味がその金を狙っていることを知らされ・・>

 

 市川崑劇場「木枯し紋次郎」の事実上の最終回。監督は大州斎だが、監修として市川崑監督も名を連ねている。最終回にふさわしく、本編の舞台は、あの因縁の紋次郎出生の地、上州新田郡三日月村。共演として華を添えるのは、何とあの時代劇のレジェンド、嵐寛寿郎

 そして本作では、最終回にして初めて、原作では必ず毎回、言及される紋次郎の身なり、いでたちについて、芥川隆行のいつもの名調子で冒頭にイントロされるのが最大の特長だ。

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 そのナレーションによれば

- 目深に被った三度笠は雨と風に晒されて黒っぽく変色していた、紺色の道中合羽は泥水でも浴びたような染みが拡がり、地に埃を吸い取って、細い縞はかすかにその名残を留めているに過ぎない。汚れて雑巾のようになっている手甲脚絆、腰に急角度に落とし込んでいる長脇差の鞘は、錆朱色で鉄環と鉄こじりで固めてある。大きい頑丈な鍔がずしんと重そうで、これだけが身なりに相応しくない値打ち物の感じであった・・

また曰く付きの、三日月村に関しても、同様にナレーションでは

= 上州新田郡は現在の群馬県南東部の新田郡である。三日月村はこのあたりでも貧しい部落であったらしい。天保年間宗門改帳によると家数は合38軒とあり、うち20軒本百姓、無田8軒、無田というのは石高を持たない百姓のことである。他に寺社各1軒、畑地に比べ水田が著しく少ないことが、土地柄の貧しさを物語っていた、という具合に、最終回に相応しくナレーションで、紋次郎のプロフィールを、まず掘り下げている。

 更には、そもそもシリーズにおける紋次郎の人間像の根底を成す出来事でもあった、間引きのいきさつについても、回想シーンを駆使して詳細に語られている。

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 注目すべきは、その回想シーンの映像。ハイ・コントラストのその映像は、「犬神家の一族」を始めとする市川崑版、金田一耕助シリーズの回想シーンそのものであり、クレジットに偽りなく、このパーツを本シリーズの生みの親ともいえる市川崑が監修しているのは明らかだ。

 70年代のエンブレムともいうべきモニュメントを打ち立てた紋次郎が、1973年3月31日に終わりを告げたのは、確かだが、その日はまたある意味、本シリーズがレジェンドとして、時代の移ろいにも決して色褪せることのない永遠の生命を得た記念の日ともいえる。

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 来たる新たな時代に相応しくリニューアルした紋次郎が、再びTVのブラウン管に姿を現すのは、実に四年後のことになる。