マックイーンがコルト45を構えるそのポーズ。ポンプ式ショットガンをぶっ放すそのスタイルが70年代アクション映画のエンブレムとして刻まれた永遠の傑作
(評価 82点)
笑わないはずの「わらの犬」がはじめて笑った。ハリウッドの反逆児が、人生で唯一飛ばした大ヒットはおしどり夫婦の逃避行だった。
人生にはバイオリズムというものがあるもので。とりわけ紆余曲折が必至の映画監督には山あり谷ありがあって当然だ。ちょうど70年代に突入し、「わらの犬」というホットな作品でセンセーションを巻き起こしたサム・ペキンパーのバイオリズムは明らかに上昇する気運にあった。その上り調子のいきおいにまかせて、マックイーンと組んで大成功したのが本作。
ペキンパーならではのストップモーションとカットバックによって、服役中のドク・マッコイ(スティーブ・マックイーン)の仮釈放の却下、刑務所暮らしのフラストレーションがマックスにまで達している描写。そして、妻のキャロル(アリ・マッグロウ)に持ち掛け、顔役のベニヨン(ベン・ジョンソン)に口利きさせ、出所を果たすまでがリズミカルに描かれるイントロの時点で、既に誰もが本作のクオリティーのほどを思い知ることでしょう。
出所後に交わされるドクとキャロルの濃密な時間。このシークェンス、何度見ても明らかにプライベートでも成就を果たしたカップルのリアルな愛情が発散されていてこちらまでドキドキする位の実感がこもっている。
ここから一気に本作は、脚本を担当した、後に漢アクション映画の顔ともなるウォルター・ヒル・ブランドのテイストを帯び始める。実のところ、ウォルター・ヒルは本作に関わったことでペキンパーの血脈をしっかりと、継承盃のように受け継いだのではないでしょうか。現に、後にヒルの初期の代表作となる「ザ・ドライバー」には、本作の駅のコインロッカーのカギをすり替え、物品をくすねる子悪党のシークェンスが、そのままそっくり借用されている。
序盤にはこれもヒルの映画で何度も出てくるハイ・テンポの銀行襲撃シーンが出てくる、そしていよいよドクとキャロル、いやマックイーンとマッグロウのカップルの逃避行が始まるのだ。
負け犬がもっとも好きなシーンは、後半のマックイーンがドラッグストアに入り、TVに映る自分の指名手配のニュースにソワソワしながら購入したばかりのポンプ式のショットガンを、パトカーに向けてぶっ放し、パトカーを粉砕してしまう衝撃の連続カット。子供の頃に見た時は、ドラッグストアで、まるでコンビニでおにぎりを買うようにショットガンが買えてしまう光景にカルチャーショックを覚えた記憶がある。
ここでマックイーンがパトカーに向けて撃った際の衝撃による反動が、それが明らかに実銃であることを語っていて、そのリアルさには何度見てもシビレまくってしまう。
やがて指名手配の挙句、警官に追われ、ゴミの山に逃げ込んだら、清掃車であれよあれよと運ばれて、見渡す限り夢の島のような、光景の中、トゥーツ・シールマンのハーモニカのテーマ曲をバックに、二人が肩を寄せて歩くシーンは、誰の心にも焼き付くような名シーン。そして、いよいよ最後のクライマックス、モーテルでの伝説的な銃撃戦になだれこむ。
このシークェンスのペキンパーならではの、ドクと一味、そしてドクを天敵のように執拗に追い回してきたルディとのスローモーションを交えたガンファイトのシーン構成は、圧巻の一言。
ラストはカウボーイのおじさんの車をハイジャックしたドクとキャロルが、カウボーイに洒落た計らいを示しメキシコ国境に逃げおおせるところでエンドとなるが、TVの日曜洋画劇場での放送時、あのさよなら、さよなら♪で有名な淀川長治さんが、モラリティを意識した、実は二人が殺される別エンディングもあったことを嬉しそうに喋っていたことを今でも覚えている(別エンディングが実際にあったかどうかの真偽のほどは確かではないらしい。風のうわさだけでTVで喋ってしまうところが淀川さんらしい(笑))。
本作は大ヒットし、反逆児としてその生涯を終えたペキンパーの唯一のボックスオフィスにおけるエンブレムとなった。プライベートでは、エゴが強すぎ現場では敬遠されがちだったというマックイーンと一匹狼のペキンパーとはウマがあったのか、本作と同年にもコンビを組んでノスタルジックな現代の地味なカウボーイ・ドラマの「ジュニア・ボナー/華麗なる挑戦」という佳作を作っている(興行的には、こちらはものの見事に大コケしている)。
それにしてもペキンパーとマックインーン、そしてトゥーツ・シールマンのハーモニカにアリ・マッグロウという組み合わせ、いかにもザッツ洋画という、この感じがセブンテーズにとっては永遠にたまらないものなのですよね~