負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の警察官はストが好き「ロボコップ2」

アメコミ作家のフランク・ミラーのコミック感満載のテイストに、一作目では物足らなかったロボコップと敵のバトルだけは存分に楽しめる及第作

(評価 60点)

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あのキングコングもそのルーツはCGではなく、人形がカクカク動くストップモーション・アニメだった。一作目のバイオレンスはマイルドに、ヴィランはよりキッチュになった今回のカオスな世界。カクカク動いて戦うロボコップ2号のノスタルジックな見せ場が長いのだけが見所だろうか。

 犯罪撲滅にではなく、労使交渉のみに執念を燃やす、ご存知デトロイト市警。一作目同様、親会社?のオムニ社との労使協議が揉めて、のっけから余念がないのがトライキ。だから、街はさながら犯罪天国、今日も今日とてヒャッホーな犯罪者が自由を謳歌している。ところがそこに現れるのが、給与も年金も関係ないノッシノッシと歩くフルメタルなあの男というわけで、本作は、一作目のブラックなユーモア感も、上出来のエンタメ感も見事にかなぐり捨てて、ポンコツ映画のドライブ感丸出しで進んでいく。

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 けばけばしいエイティーズなカラーのスタジオセットで、悪党は、あきれるほどに分かりやすく悪いことをやってくれ、あのピーター・ウェラーお得意のパントマイム(このパフォーマンスだけは確かにお見事)な動きのロボコップがそれをバンバン撃ち殺してくれるのだ。

 撮影時に既に高齢だったはずの監督のアーヴィン・カーシュナーが、ベテラン監督のキャリアをまるで鼻にも掛けずにジャンク・ムービーに徹してくれているのが何だか微笑ましい。加えて、今回の悪役、麻薬王ケイン(トム・ヌーナン)のサイドキック的なヴイランが今回は何と子供。この子供が大人びた仕草で大人を惨殺しまくる奇妙なキッチュ感覚が、本作をとてつもなく変てこなものにしている。

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 今回、ストーリー作りに加わったアメコミ界の鬼才フランク・ミラーのコンセプトなのか、それともカーシュナーの意図なのかは知らないが、嫌悪感を催すようなこの子供ギャングにはじまってチグハグなファクターが本作には、実に多い。厄介なことに、デトロイト市警の署内をノッシノッシ歩くロボコップやヒステリックに喚き続ける黒人市長を見ていたらコメディ映画を見ている気分になってくる。ロボコップ2号のチープなデザインはもとより、その2号に、よりによって悪党のケインの脳髄を移植して手なずけようとする女博士など、ほぼ一般人では、理解不能な領域だろう。しかし、不協和音は裏を返せば、ジャンク・ムービーには欠かすことが出来ない調味料、というわけでジャンクフードを楽しむ気になれば、本作もそうは悪くもないのだ。

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 クライマックスにはお待ちかねの、真正ロボコップといかにもチープなロボコップ2号の戦いが待っているが、有難いのがストップモーションで繰り広げられるそのアナログな戦いのボリューム。ほんの1,2分の顔見世程度に過ぎなかった一作目とは打って変わって、本作ではサービス過剰なほどの満点のボリュームでノスタルジックなアナログ感を満喫させてくれる。

 この負け犬の世代、当然、特殊効果と言えば、もっぱらミニチュアと着ぐるみで、円谷プロの、ピアノ線で吊られたビートルが空を飛ぶ世界しか、子供の頃は知らなかった。だから,大昔の「キングコング」のストップモーションのSFXを、TVではじめて見た時は、少なからず驚いた。古色蒼然としたモノクロ映像の中、ストップモーションならではのぎこちなく動く生き物たちが、子供心には、やけにリアルで何だか怖かったことを憶えている。

 1933年の「キングコング」で魔術師さながらの腕を奮った特殊効果マンのウィルス・オブライエンに魅せられ映画界に入ったのが、伝説的なストップモーションのアニメーター、レイ・ハリーハウゼン。この人が手掛けたシンドバッドや「アルゴ探検隊の大冒険」のクライマックスでのガイコツたちと人間との戦いなど、ブラウン管にかじりつくようにして見ていたものです。ストップモーションがそもそも人形を1コマ1コマ動かして、それを撮影したものであるというメカニズムを知ったのも、それからずっと後の事だったようにも思う。

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 この「ロボコップ2」のストップモーションを手がけたフィル・ティペットも、そんなレイ・ハリーハウゼンが生み出す世界に魅せられた一人だった。フィル・ティペットといえば業界でも筋金入りの、ストップモーション・オタク的な人物として知られている。本作が作られてから数年後、時代は急激に、アナログからCGへと、その潮流を変え始める。だから尋常ならざるボリューム感と力の入れ具合すら感じさせる本作のストップモーションは、ティペットのようなアナログなSFXマンの末裔たちが、嬉々として自分の腕が奮える最後の花道だったのかもしれない。

 時間は、決してストップしない。無常に時を刻み続けるもの。本作のエンドクレジットのティペットのクレジット名のタイトルのバックには、如何にも場違いで素っ頓狂な、女性コーラスのスキャットが流れるが、化石のように滅びゆく特殊効果マンへのレクイエムとしては、そのチグハグ感が、何だかやけに似合っているのだ。