負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。そして、木枯し紋次郎を完全コミック化(笑)した「劇画!木枯し紋次郎」を日々、配信中!色々な動物が繰り広げる動物コミックもあわせてお楽しみください

木枯し紋次郎 第二十六話「獣道に涙を棄てた」 初回放送日1973年1月6日

カリスマの才能が70年代を席巻した

 

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<紋次郎は、赤い牛とだけ言い残し顔面に火傷を負って行方をくらました夫を探す盲目の女お鈴と出合う。今も赤い牛の迷信を信じるお鈴だったが、紋次郎は、その火事の一件を絹問屋たちが巧妙に利用していることを知る。それを察知した絹問屋の主人はカラスの源蔵一味の刺客の集団を放つのだが・・>

待望の中村敦夫初監督作品。なによりも本作は初監督ならではのフレッシュな意欲に満ち満ちている。また俳優のみならず、小説家、果ては国会議員にいたるまでマルチ・タレントとしてつとに有名な氏のその才能の片鱗を十二分に発揮した一作といえる。

 まず、いきなり驚かされるのが冒頭の火事のシーン。二軒分の小屋を作って燃やしたというだけあって並の迫力ではない。さらに、火だるまになって飛び出てくる太吉のショット。あきらかに半端なく危険な撮影だったことが一目で分る。ただ、赤牛!とだけ意味不明に喚いて消えていくまで、尋常ならざる効果満点の導入部のオープニングの演出としては満点だろう。

 そしていきなり場面転換してからの紋次郎の登場シーン。近付いてくるその足音にかぶせ、盲目のお鈴の瞼に残る太吉の姿と紋次郎の姿をシャッフルしてのカットバック。明らかに市川崑を意識したようなスタイリッシュな演出にニヤリとさせられる。

 だが、何といってもとにかく度肝を抜かされるのが本編の白眉、黒づくめの渡世人集団、カラスの源蔵一派との集団戦のシーン。このシーン、相手となるその集団、実は全員が斬られ役の役者たちではない。すべて某大学のラグビー部の実際のアスリートたちなのだ。

 元々。リアルな戦闘シーンを描きたいと思っていた中村敦夫は兵法をつきつめたら走って走って走りまくるはずと考え、アメフトのフォーメーションまで取り入れ全て自分でこのシーンの造型を考案した。だから、とにかく走る。広大な田畑を全力疾走する紋次郎を前景に、同じく全力で走る渡世人集団を背景に同時に捉え、横移動で集団を追うトラッキングショットのダイナミックなこと。さらにはタックルをかわす動きや、スクラムまで取り入れたスタイリッシュな殺陣。とてもテレビのシーンとは思えない、まるで劇場映画の極上なワンシーンを見ているようでもあり、後にも先にもこんなアクションシーンが見られる時代劇なぞ、間違いなくこの作品しかないはずだ。

 他にも、とても初監督とは思えない秀逸な描写をあげればキリがない。でも、特筆したいのはラスト。火に包まれた納屋の炎熱を避けるためまとっていた赤い反物を宙に放り投げ、あのお馴染みの楊枝飛ばしで紋次郎が樹に打ち付けてみせるシーン。その瞬間、二頭のシカが樹の後ろを走ってよぎっていく。普通に撮ればいくらでも撮れる。でもあくまでも細部にこだわるその姿勢がこれだけでも十分にうかがえる。

 安易には決して迎合しない、あくまでも己を貫く孤高の存在感を放つ中村敦夫ならではの演出術なのだろう。

 願わくば、大画面の劇場映画でもその監督手腕を発揮した作品を見たかった。きっとアッと驚くような作品を作ってくれたはずに違いないのだが・・

 にしてもこの作品、明らかに他の回よりも予算がつぎこまれていることが良く分かる。冒頭の火事のシーンはもとより、エンディングにまで燃えさかる納屋を背景にした立ち回りがあって、また黒ずくめの源蔵たちが着る着流しひとつにしても、それぞれの三度笠まで念入りに形や、大きさまで丁寧に変化をつけてあるのに感心する。

 やはりここは一応あの集団戦さながら、大スターの威光を盾に制作会社とうまく渡り合って勝利したということなのでしょうかね~