負け犬的映画偏愛録

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負け犬が凄まじいマッドネスに血をたぎらせて熱くなった件「アポカリプト」

ジャガーの咆哮がジャングルにこだまする!走れ!跳べ!そしてどこまでも逃げろ!眠っていたケモノの五感と本能が呼び覚まされる究極のアスリート系エンターティメント!(評価 86点)

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 物議を醸しながらも、超大ヒットを飛ばし世間を驚愕させた「パッション」に次ぐ、「マッドマックス」ことメル・ギブソンの監督作。コロンブス、そしてそれに続くスペイン人の到来以前、現在のユカタン半島で暮らしていたネイティブの部族たちの侵略、殺戮をギブソンならではの徹底したリアリズムで描く本作。

 これだけ聞くと、ドラマなの?と思う方が大半かもしれない。ところが、本作は、完全無欠のエンターティメント。それも手に汗握るというより、体の血がたぎり、全身の汗腺から汗が噴き出してくるような究極のアスリート系エンターティメント映画と言っていい。

 キリストがただひたすらイジメぬかれるだけだった前作「パッション」同様、本作のストーリーもいたってシンプル。ジャングルで平和に暮らしていたジャガー・パウたちが、マヤ帝国の戦士たちの襲撃を受け、捕虜として捉えられ、生贄にされかける。その難を脱したジャガーが今度は、戦士の狩猟ゲームの標的にされる。しかし、からくも脱出に成功し、深いタテ穴にかくまった妻子の元へと、たたひたすら逃走する。言ってしまえば、それだけ。

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 しかし、メル・ギブソンのパワフルきわまりない演出はもとより、スタッフ、キャスト、美術などのすべての領域にわたってギブソンが要求したポテンシャルは、とにかくマッドネスの一言。既成の映画のポテンシャルのレベルを超越している。ただ殴る、そして吹っ飛ぶというアクションの動き一つとっても他では見たこともないエネルギーが宿っている。そして、何よりもその言語。ボックスオフィスを考慮すれば絶対に有り得ないともいえる、役者たちが喋る言語を英語などではなく全編マヤ語で通すという徹底ぶり。だが、その徹底ぶりが圧倒的なリアリティの描出につながっている。

 まずはプロローグの、狩猟シーンの並々ならぬダイナミズムに度肝を抜かれる。勇猛果敢ながらもリーダーとしての資質を兼ね備えたジャガーを中心に、平和に暮らす部族たち。そんな部族がある日、屈強なリーダーに統率されたマヤ帝国の戦士たちの襲撃を受ける。ここでの虐殺シーンの凄惨さにも目を見張るのだが、本作でも前作同様、ハリウッドのスタジオ映画で見慣れた俳優は一人も出てこない。しかし、その存在感をはじめ、よくぞこれだけ集めたといわんばかりの、いずれも見事な肉体揃い。このリアリティもまた圧巻。

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 かくして森を抜け、マヤ帝国のテリトリーまでの道程も過酷そのもの。だが、本作のマッドネスを本当に体感させられるのは、ここから。広大な広場に、実際に建造された、生贄を捧げるための巨大な祭壇。マヤ文明の独自のデザインで入念に作りこまれたそのセットの緻密さは勿論のこと、これまたその一人一人に綿密にペイントが施された、その周囲を埋め尽くす群衆を見るにつけ、そのマッドネスとしか言いようがない威容には、良くぞここまで作ったなという、圧倒的なパワーにひれ伏すしかない。

 そして、狩猟ゲームの獲物にされたジャガーが逃走する、アルティメットな究極のスポーツ映画といっても言いような後半パーツは、もう血がたぎり、興奮すること必至。待ち受ける数々のトラップを切り抜け、ただひたすら妻子の元を目指すジャガーに、眠っていた動物としての五感が呼び覚まされるといえば、言い過ぎだろうか。

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 ようやく逃げ延びたと、思ったのも束の間、その後に到来する、マヤの戦士たちなど足元にも及ばない強大な敵、文明という敵が待っているというエンディングもビター。

 演出、キャメラ、キャスト、美術、すべてのカテゴリーでマックスといえるほどのポテンシャルを見せつけてくれる本作は実に圧巻。そのあまりの熱量のボルテージに、見ているこちらまで人間がそもそも火を自ら起こし、狩猟し、獲物を食うホモ・サピエンスだったことを思わず想起してしまう。

 ただ一つ残念だったのは、これほどのポテンシャルを引き出す逸材だったメル・ギブソンが、差別発言などで人間的に問題があったことを露呈し、事実上、キャリアの上で末路を辿ったようなコースに陥ってしまったこと。

 本作は、役者の肉体が口ほどにも物を言う作品だけど、やはり、社会的なマナーでは口が災いの元になる。やっぱり人間、発言には気をつけたいものですよね~