負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の大事なのはお手頃感とお手軽感「タクシー」

フランス版の寅さんかトラック野郎、頭を空っぽにして楽しむのが鑑賞マナーたるスナック映画(評価 60点)

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リュック・ベッソンが、大衆向けプロデユーサーに完全に方向転換したブレーキングポイント的な作品。とにかく何も考えずに見るのが正しいたしなみのプログラム・ピクチャー。

 デビュー当初から、作家性とエンタメとの抜群のバランス感覚を発揮して独自の地位を築き上げていたリュック・ベッソン。そのベッソンが作家性のベクトルをかなぐり捨てて大衆向けプロデユーサーに完全に方向転換した作品と言えようか。実際、本作以降、ベッソンはプロデユーサーの座に収まり徹底してチープっぽい作品を量産しては、フランス一の大物プロデユーサーになっていく。

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 スピード狂のタクシー運転手ダニエルと、ひょんなことからコンビを組む羽目になったドジな警官エミリアンが結束して強盗団を追っていくという実にシンプルな内容の本作。一言で言ってしまえば、実にお手軽な映画。その分、頭を空っぽにして楽しむ分にはもってこいの映画といえる。

 オープニングはタランティーノの「パルプフィクション」でも使われていた曲。その曲に乗ってバイクにまたがり爆走してはピザを配達するダニエルで幕を開ける。ダニエルはかつてからの願望であった個人タクシーのビジネスの認可が下り、念願のプジョーを駆ってタクシー業をすることに。そんな時、ふとしたことから運転感覚ゼロのエミリアンと出合う。折しも世間ではドイツ人グループの強盗団「メルセデス」が文字通り真っ赤なメルセデスに乗ってマルセイユ市内の銀行を荒らしまわっていた。かくしてマルセイユ警察一の凸凹コンビと強盗団の対決の結末は如何に!

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 結末は如何に?といっても誰もが察する通りの絵に画いたようなハッピーエンドなのは決まっている。だって本作はプログラム・ピクチャーなのだから。とにかく本作は、演出もお手軽、俳優もお手軽、ギャグもお手軽、アクションもお手軽、全てが万事お手軽な作品。このお手軽な感じは、良く商店街に昔からある町中華の店の隅に置いてある、大衆向けの泥臭いマンガに良く似ている。でも、そのどっぷりと大衆向けのテイストに浸かったようなマンガ本も、オーダーが来るまでの時間を潰すお客さんたちには必要で、そう意味で本作は、映画というインフラには、おそらく絶対、必要な面子なのでしょう。

 プログラム・ピクチャーといえば、日本にはあの「寅さん」や「釣りバカ日誌」それに「トラック野郎」といったB級プログラム・ピクチャーのお手本のようなスタンダードがあったけど、本作を見ている間、想起したのはそんな作品群。

 よく考えれば「寅さん」や「釣りバカ日誌」もTVでチョイ見した位で、映画館などではついぞ見ることなどなかった。それでも、昔、知人がたまたま「釣りバカ日誌」を映画館で見る羽目になって、その時のことを話してくれたことがある。

 ほぼ満員の映画館のその客の大半がシニアの年配の人たち、それもご夫婦連れが圧倒的に多くて、スクリーンにハマちゃんや社長が出て来る度に、あのキャラクターはなにそれでと連れ合いと和気あいあいと喋り合って、館内自体の雰囲気が実にほのぼのとしていたと言っていたのを何故か今でも覚えている。

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 考えてみれば、映画なんて本来、大衆娯楽として生まれてきたわけで、それこそがあるべき姿、そもそもB級プログラム・ピクチャーというものがなければ映画産業自体成り立たない。現に本作も、大ヒットしてその後シリーズ化されて何作も作られた。そういう意味でやはりベッソンがベクトルを転換させたそのアンテナは正しかったといえるのでしょう。

 だからといって、この負け犬がこの「タクシー」を2作目以降も見るかといえば微妙なところなのですけどね~