負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の一日だけの永遠のホリデイ「ローマの休日」

今なおチャーミング!今だからこそチャーミング!オードリーのコケティッシュな魅力が炸裂するエンターティメントの一級品!

(評価 84点)

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刻々と時を刻む、一日だけの永遠の時間。焼き付けられる忘れ得ぬ思いでと儚いロマンス。しかし、そのバック・ストーリーには、決して明るいだけではない、ハリウッドの暗黒の歴史があった。

 初見はほんの子供の頃、「ゴールデン洋画劇場」だったはず。それから、延々、数十年を経て、とにかく時間を忘れて楽しめる作品が無性に見たくなった頃、ふと思い出して再会を果たした本作。その面白さは、まさに一級品にふさわしい、今なお、夢中になって楽しめる、まごうことなき傑作だった。

 欧州の某国の王女アン(オードリー・ヘプバーン)は、来訪したイタリアのローマで、毎日の公室の暮らしに飽き飽きし、ある夜、とうとう宮殿を抜け出し、ローマ市内に出てしまう。歩き疲れ、たまたま居眠りしてしまった時に記者のジョー(グレゴリー・ペック)と出会い、自らをアーニャと名乗って素性を偽るが、ジョーはすぐに王女のアンだと見抜き、特ダネをものにしようと、アーニャと一日行動を共にすることに・・・やがて親密になる二人だったが、別れの時は無情にもやって来る。

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 今更、言うまでもない、まるでアンデルセンの童話を、現代劇に移し替えたようなおとぎ話。でも、それが、ウィリアム・ワイラーの一級の演出と、本作で大抜擢されたオードリーの魅力、オールロケによるローマの魅力が絶妙なアンサンブルを奏でるや、超一級のエンターティメントと化す、その凄みには、正直、圧倒された。

 一日だけ許された時間を、いつくしむように全身で楽しみ、王女としての公務も懸命に果たそうとする、その明るくも、けなげなキャラクター像は、あの宮崎駿の「カリオストロの城」のクラリス像にクローンといってもいいほど着実に受け継がれ、ラスト、宮殿で王女アンの姿になり帰ったオードリーとグレゴリー・ペックの目と目で、最後の別れを確かめ合うシーンには、見事にホロリと泣かされた。

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 映画史においては、黄金の年というものがたびたびバイオリズムのように現れるが、本作製作の50年代前半は、ビリー・ワイルダーの「サンセット大通り」をはじめ名作群が目白押しのまさに豊作の年。そして、この傑作を傑作せしめた屋台骨が、現実のドラマにファンタジーの要素を絶妙に取り入れた絶品の脚本にあるのは誰が見ても一目瞭然のはず。そして、今回、ビックリしたのが、オープニングの脚本家のクレジットに、あの名脚本家ダルトン・トランボの名前が冠されていたこと。

 ダルトン・トランボといえば、ハリウッドの黒歴史ともいえる赤狩りで、ハリウッドを追放された伝説の脚本家として、あまりにも有名な存在。そして、トランボが、その追放期間中、別人になりきり、別名で数々の脚本を発表していたことも。

 今回、見たDVDにはメイキングも収録されていたが、そのメイキングでは、当初の本作のクレジットには、イアン・マクラレン・ハンターという全くの別人がクレジットされていた事実が明かされている。オープニングクレジットにようやくトランボの名前が堂々と掲げられるようになったのは、製作後、十数年もの時を経てからだった、これだけの名作をモノにしながらも、自らの実名で作品を発表出来ない無念さは、クリエイターとしては、断腸の思いがあったのではなかろうか。

 この脚本こそ、そんな無念さを、自らの素性を隠して、一日だけの休日をフルスロットルで吸収しようという王女アンに、トランボが、ほとばしるような思いを託して描き上げた脚本といえば勘ぐり過ぎだろうか。一見、天真爛漫、無邪気そのものの本作に、そうしたグレイなバック・ストーリーがあったというのは感慨深いものがあるものです。

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 しかし、それにしても、本作製作当時、無名に近い新人女優に過ぎなかったオードリーの溌溂たる魅了は素晴らしい。いたずらにスクーターにまたがり、それが動き出した時のおどろいた表情、それにちょっとした仕草や身のこなし、そうした全てに生命力が満ち溢れている。まさにこの映画のアンを演ずるために生まれて来たんじゃないの?と思えるほど。

 どこをとってもチャーミング、それでいて一点の非の打ちどころもない本作。数十年ぶりに再見しましたが、今後はきっとマストのアイテムになることでしょう・