負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう崖っぷちの映画録。また、たまに<映画をエンジョイ英語もエンジョイ>と題して、映画の実際のスクリプトを原文と翻訳でご紹介。英語学習気分もちょっぴりどうぞ!

負け犬も誰かと映画を見てみたい「サスペリア」

「決してひとりでは見ないでください!」のコピーも躍る、鮮やかな原色の色彩と、おどろおどろしい音楽、こけおどし全開のイタリアン・バロックホラーの決定版!

(評価 72点)

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心的恐怖も内容も何もない、しかし、とことんお化け屋敷に徹すれば、それはもはやこけおどしの美学としか言いようがない。

 今のように、プレミア映像の動画をあちらこちらにアップして、映像そのもので自由に宣伝できる時代になる前は、映画の宣伝といえば、惹句。つまりはキャッチコピーが決め手だった。映画のポスターに躍る、その惹句のインパクトで、現実に興行収入をも左右することすらあったのだ。

 この負け犬が、中学生になったばかりの頃だろうか、学校中を席巻する、とある映画のキャッチコピーがあった。そのコピー「決してひとりでは見ないでください!」が躍る映画こそ本作「サスペリア」だった。当時も今もヘタレな負け犬は、ロードショー誌に載ったスチル写真だけでビビッてしまい、見に行くはずもなかったが、コワいもの好きな、男子や女子は、「決してひとりでは見ないで!」の警告も完全に無視してキャーキャー言いながら、一人どころかわんさか連れ立って、大挙して見に行ったものだった。その結果、当時の業界では、まったくのノーマークに近かったイタリア製ホラーの本作は、異例の超大ヒットを記録、そのコピーとともに長らく語り継がれる作品となったのだった。

 やがて成長した負け犬だったが、やはりビビリのヘタレの性格だけは引き摺って、それなりにホラーは見ていたはずなのに、何故か、本作は見ないまま、むやみやたらと年を取り、いよいよこの度、何の因果か見てしまったという次第。

 すると、どうでしょう。目にも鮮やかなその色彩、徹底したこけおどしモード全開で、がなり立てる音楽、けばけばしい、めくるめく映像に酔わされ、ガタガタと揺れるゴー・カートに乗ってお化け屋敷をキャーキャー言いながら回遊する、あのノスタルジックな陶酔感をすっかり味わってしまったのでした。

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 確かにコワイのはコワイけど、心的恐怖などまるでゼロ。だから、お化け屋敷を出た後は、コワイことなどすっきりと忘れてしまうあの感覚で、精神衛生的にもいいんじゃないかとすら思えたのでした。

 ニューヨークからやって来た女の子スージージェシカ・ハーパー)がドイツの空港に降り立つところから、すでにこけおどしモード全開、あのゴブリンのテーマがヒュ~ドロドロと流れ出し、妖しい歌声で、一気に極彩色の世界に連れて行かれる感覚がたまんない。

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 目指すバレエ学校に到着するや、そこからは、もうストーリーなどあってないようなもの。ただひたすらノー天気な脅かしが繰り出される。有名なウジ虫に、天井のガラスを突き破っての首吊り殺人、盲導犬の襲撃に、カミソリ魔、そして針金地獄、アラカルトのように展開される数々の見せ場には、思わせぶりなど何もない。だってその原色モードが雄弁に物語っている。はじめから意味など無い。ここにあるのは、ただお化け屋敷の出し物をプロデュースして驚かせてやる、純真無垢なその心意気だけなのだ。

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 寄宿舎も兼ねたバレエ学校は、少女マンガを絵に画いたような女子祭り。そんな女の子たちを束ねる厳格な主任教師ミス・タナーが名女優のアリダ・ヴァリ。ゴブリンの音楽が物々しくがなり立てる中、惨劇が繰り返され、このミス・タナーに、ひとくせも、ふたくせもありそうな秘密の気配を匂わせ、やがてどうやら魔女の儀式が絡んでいることが分かってから到来するクライマックスは、原色のお化け屋敷そのもの。

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 かくして、少女マンガのヒロインよろしく、どんなにコワイ目にあっても、いつも気丈なスージーが、どうやら魔女の正体らしきものが明かされ、定石通り、何とか難を脱し、学校を後にするエンディングに至っても、ストーリー自体はチンプンカンプン。でも、最初から、内容ゼロと高らかに宣言されているから、少しも腹も立たないわけで。その昔、あのクェンティン・タランティーノが若き頃、本気で本作の監督ダリオ・アルジェントに弟子入りしようとしたとかしないとか、どこかで書いてあったことを読んだことがあったが、この圧倒的にキッチュな作り物の見世物小屋感覚を見せられれば、それも案外、ガセではないとうなずける。

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 昔ならいざ知らず、今となっては映画も、もっぱら一人きりの”ぼっち鑑賞”が常だけど、何だか、誰かとワイワイキャーキャー言いながら映画を見ている、そんな色鮮やかな極彩色の夢を見させてくれる映画なのかもと言えば、褒めすぎでしょうかね~