負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう崖っぷちの映画録。また、たまに<映画をエンジョイ英語もエンジョイ>と題して、映画の実際のスクリプトを原文と翻訳でご紹介。英語学習気分もちょっぴりどうぞ!

負け犬が食べるエサは人肉ミンチ「ブラック・エース」

ハードボイルドなタフガイ、リー・マービンの仇敵はメリー・アン?最後に戦う相手は巨大な耕運機?何から何までオフ・ビートなカルトノワールの珍作

(評価 66点) 

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不思議の国のアリス」に残酷趣味をブチ込んで、そのままハードボイルドチックな活劇のフォーマットに落とし込んだら、こうなりました、とでもいわんばかりの怪作。

 70年代当時、「がんばれベアーズ」という傑作を放って、個人的に大注目していたマイケル・リッチー監督がリー・マービンとその敵役にジーン・ハックマンをダブル主演に据えたハードボイルド活劇とあって、70年代アクション好きな負け犬が長年、ずっと見たかった作品。いくら待っても日本でDVDが出る気配がないので、とうとう輸入版を購入してやっと見ることが出来た(後日、日本でもDVDがリリースされたけど、輸入版の方がはるかに安価だったのである意味助かった、というのも高い値段で買うほどのものでも・・・)

 ところが、ようやく見た本作、見た直後はあまりの事に呆然としてしまったのだった。あのマイケル・リッチーだから、そのドキュメンタリー的なセンスを生かして迫真的なハードボイルド活劇を見せてくれるものと思いきや、のっけから異様な路線でライドする奇妙としか言えない代物だった。

 イカす70年代テイストのオープニングを期待すると、まず、いきなり拍子抜けさせられるのがそのオープニング。のどかな音楽と共に、ひしめく牧牛たちのアップで始まるのだ。さらに続くのがウシをバラして精肉にする製造工程。ところが、その牧牛たちのデカい尻に交じって見えるのは白い人間のお尻。やがてムニュムニュと機械からひり出されてくる赤い肉。つまりこれは、人肉ミンチなのだ。

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 一転、シカゴの組織の人間が集う酒場。カウンターにデンと置かれた包みを開けると、そこには人肉ミンチで作った出来立てのソーセージ。どうやら組織の人間がカンザス一帯を牛耳る牧場主メリー・アン(ジーン・ハックマン)の餌食になったらしい。そこでシカゴのボスは「北国の帝王」のエースナンバー1ならぬ、組織のNO1、ニック(リー・マービン)をカンザスのド田舎に送り込む。

 かくして、出会った天敵同士のような二人は、対決の時を迎え、という基本の図式はいいとして。とにかく、本作、それに至るディテールが、異常なのだ。

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 そもそも敵役の名前がメリー・アンというフザけた名前にはじまって、牧場でニックが最初にメリー・アンと対面した時、メリー・アンが旨そうに食っているのが皿に山盛りにした牛のモツ。一方、納屋で行われているのが、柵に入った全裸の女たちを牧場主たちが競り落とす人身競売。この俯瞰で捉えた、柵に入った全裸の女性をニヤニヤしながら男たちが品定めするショットで一気に見る気が萎える人もいるのではないでしょうか。

 ニックがこの奴隷の女たちの一人、ポピー(シシー・スペイセク)を助け出したことで、ニックとメリー・アンの確執が一気に爆発する。

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 取り巻く、脇役もまた奇妙な連中。メリー・アンの実弟の男はどうやらソーセージ・フェチみたいな変な男で、メリー・アンと弟は、よっぽど仲がいいのか、会えばいきなり殺し合いともつかない派手なじゃれ合いをゲラゲラ二人で笑いながらしたりする。一方、ニックが引き連れている仲間たちは、どれもこれのギャングに見えない青二才みたいな連中ばかり。要するにどれもこれもノワールのツボを敢えて狙っているかのようにハズしているのだ。

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 そしてきわめつけはクライマックス。感謝祭のようなフェスティバルの会場で、奴隷から普通の女の子の身なりにしてやったポピーを従えたニックとメリー・アンが対峙する。そこで散らした火花を契機に銃撃戦が始まるが、広大な畑を逃げていくニックとポピーに迫るのが化け物のようにデカい耕運機。怪物の牙を思わせる刃先をうならせ、とてもスピーディーとはいえない耕運機がノロノロ追いかけるチェイスは緊迫感ゼロで間抜けとしかいいようがない。そして、それがニックを送って来たハイヤーの車に撃破されるシーンの実にショボイことといったら・・。

 最後は定石通り、納屋で、メリー・アンとニックが撃ち合った挙句、メリー・アンのお陀仏で、終わりはするが、エンド・マークを見た後、誰もが呆気に取られるに違いない。確かに一度、見たあと負け犬もあまりの肩透かしに二度と見るものかと思ったのです。ところが、不思議なことにこの奇妙なテイストが気になって、それ以来、何度も見るようになって今や病みつきになっているのですよね~。それに、デビュー作の「白銀のレーサー」でシャープな感性を見せつけ、「候補者ビル・マッケイ」では政治の世界を見事なエンタメにして俊才ぶりを示して気を吐いていたマイケル・リッチーが風変わりなノワールを作りたくなった気持ちも分からないではない。

まあ、70年代テイストのルックスの渋いキャメラや、ポピーを演じた「キャリー」以前のシシー・スペイセクの初々しいか細い裸身も拝めるし、ド田舎を舞台に繰り広げられる変わり種のカルトノワールとして必見の作品というところでしょう。