負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。そして、木枯し紋次郎を完全コミック化(笑)した「劇画!木枯し紋次郎」を日々、配信中!色々な動物が繰り広げる動物コミックもあわせてお楽しみください

負け犬の中間管理職の悲哀「切腹」

中間管理職の末路は昔も今も切腹なのか!この上もなくスリリングな身の上話に釘付け必至!

(評価 85点)

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武士といえども、いわばただの宮仕え。サラリーマンでいえば中間管理職。コロナ過の現在、屋台骨が傾いてあえなく放逐される憂き目に会えば、リーマンはただの失業者。武士も浪人となるしかない。

 そんな失業者たる浪人があふれていた時代、やはりセコいことを考える輩がいるもので、他人の家に乗り込んで、このまま生き恥を晒すのは忍びない。玄関先で切腹させてくれと嘆願した挙句に、同情を買い、わずかばかりの金品のみならず、あわよくば、再就職ならぬ仕官のお恵みに授かろうなどというケチなゆすりまがいの手口が横行していた・・という史実が本当にあったかどうかは定かではないが、本作の原作が目をつけたポイントは実に面白い。

 その卓抜な原作を見事に脚本にしたのが橋本忍。本作を初めて見たのはTVの深夜帯の放送の録画テープだった。実に軽い気持ちだったのですよ。名匠といわれる監督小林正樹の代表作だし、ま~つまんないことはないのじゃね~の、位でしかなかった。

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 そうして見始めた本作。開巻、いきなり誰が見てもさきの食い詰めものの浪人にしか見えない仲代達矢演ずる津雲半四郎が井伊家の軒先に乗り込んで来る。数日前にも、そなたと同じような輩が来たと津雲に切り出す井伊家の家老の斎藤(三国連太郎)を目の前に、津雲は、切腹たてまつる前の余興にでも、とポツリポツリと斎藤に対し自分の身の上話を語り出す。

 この瞬間から、エンディングに至るまで自分は片時も目を逸らすこともままならず見事にこの作品に釘付けにされていた。

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 言ってみればこの映画、ただ座敷に向かい合って座った男の一人が、向かい合う相手に全編2時間にわたって自分の身の上を語って聞かせるだけの映画なのだ。第三者である観客である我々は傍観者としてそれを聞いている。しかし、ただそれだけの映画が大袈裟でなく卒倒する位面白い。

 津雲が順序立てて語る身の上話によって、津雲という男の人生の一端が明かされていく。元は高尚な武士だった生活が藩の取り潰しによって尾羽打ち枯らす浪人暮らし。良くある話だと、斎藤は、初めはつまらなそうに聞いている。

 ところが身の上話が進むにつれ、すっぽりと内実を覆い隠していた表皮の鱗が一枚一枚はがれていくように、そもそも津雲が井伊家にやって来た目的が少しずつ明らかになって斎藤の表情も強張ってきて、どんどんテンションが高まっていくのですよ。

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 そして、冒頭、斎藤が何気に語った、数日前にもやって来た輩の話の伏線が、津雲の身の上話とピタリと重なって津雲の目的の全容が太陽の光でも浴びたかのように明かされるエキサイティングなことといったら、それはもう時代劇を超越し極上のミステリの悦楽のそれと言っていい。

 津雲半四郎という男の目的が何だったのか、そして現代の中間管理職のサラリーマンが噛みしめるやるせなさにも通じる武士の悲哀と散り様がどのようなものだったのかは、是非ともご自分で、特に時代劇?白黒映画?そんなもの見ねえヨという方に是非とも見て頂きたいのです。

 きっと新しい世界が開けるかもしれませんよ~