負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬さんのキャリア組として生き残るためにとにかく使えるものは何でも使えという件「ニア・ダーク/月夜の出来事」

生き残るために自分が持てるものは全て使う。それがその人の美貌であっても全然、構わないわけで

(評価 76点)

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映画のメッカ、ハリウッド。そこで相応の製作費の下、監督を一任された人間には絶対的な権力が与えられる。だが、その権力はこれもまた絶対不変の代償と引き換えなのだ。その代償とは完成した映画がヒットし、製作費を捻出した出資者に利益をもたらすこと。この鉄則は、映画が見世物小屋の活動写真であった頃から何も変わっていない。その鉄則を満たさないものは容赦なくその存在を抹消される、これが掟だ。

 ところが、そんな弱肉強食の無慈悲きわまりない世界で、生き残っている希少種といってもいい存在がいる。何故、淘汰されずに生き残っていられるのか?つまりその生き物が生き残るだけの何らかのプラスアルファを持っているからだ。

 1980年代半ば、一本のホラー映画が生み出される。ヴァンパイアものにジャンル分けされるその作品は、星の数ほど生み出される低予算のホラー映画の一本に過ぎなかった。しかし、その映画には他のヴァンパイア映画にはない斬新なテイストがあった。ヴァンパイアが古城に住む王侯貴族のようなキャラクターでもなんでもなく、ただ薄汚い現実感たっぷりな成りで、あちこちを放浪するアウトローたちの集団であることだ。それに加えてその作品は、年間数万人に及ぶといわれる全米各地で毎年失踪する青年や子供たちというアクチュアリティなトピックを掛け合わせ、青春ヴァンパイア・アクションとでもいうべきテイストすら持ち合わせていた。

 その作品の名は「ニア・ダーク/月夜の出来事」。その時代、有象無象の低予算ホラーが山積みにされたレンタルビデオ店の棚でふと手に取ったのがその作品との出会いだった。何気なく見始め、蚊が血を吸う、シンボリックなショットからたちまち引き込まれ、それまで全く見たことがないような革ジャンを羽織、全米各地を仲間とジプシーのように放浪しながら生き永らえる斬新なヴァンパイア像に目を奪われた。その快作といっていい作品を見終え、脚本家のクレジットに目を止めると驚いた。あのヒッチャーの脚本家エリック・レッドではないか。だが、さらに驚いたのは、ほどなくして映画雑誌で目にしたその作品のプロフィールだった。

 その監督が、その作品の男性的なタッチからはまるで想像もつかない、キャスリン・ビグローという女性監督だったのだ。その監督の新作が早々と公開されることになり興味津々で駆け付けたのを覚えている。そのタイトルは「ブルー・スチール」。

 一人の女性警官とサイコパスの男との因縁の対決を描くその作品は、出来としてはいささか平凡ではあったが、やはり前作に負けず劣らず力強い男性的なタッチで、加えて女性には似つかわしくない明らかに銃器へのフェッティッシュともいえる偏愛をにじませるタイトルバック通り、購入したパンフレットには本人がガンマニアであるとのプロフィールの記述と共にキャスリン・ビグローその人の写真が載っていて、その美しさには仰天した。

 というわけで快作「ニア・ダーク」。なかなかDVDが入手できず、再見出来なかったが、最近、再見がかない、特典のメイキングでビグローの話もじっくり聞くことが出来た。

 ビグローのキャリアでとかく有名なのが作る映画がどれもコケ続けたこと。ヒットどころかどれも手酷い赤字の映画ばかりなのだ。しかし、ビグローが生き残り続けてこれたのは、当人はあまり触れられたくないだろうが、その美貌の話題性が一つにあったことは明らかだ。

 親の七光りだろうが、何でもいい。何か光るものがあればそれを武器にしぶとく生き残るのが、ビジネスの鉄則なのだから。それは、まさに人間の生き血を吸って永遠に生き永らえるヴァンパイアにもどこか似ている。特典で落ち着いて語るキャスリン・ビグローには、まぎれもなくそんなタフな美しさがあった。

 ただ、過去に見た時は文句なしの快作に思えた本作だが、意外と展開が雑であったり陳腐なところは否めなかった。本作も見事に興行的に大失敗したことはメイキングでも語られていたが、実際にビグローがヒットといえるものに初めてめぐり合えるのは、これから20年以上も経ってからの話となる。

 そのキャリアもその美貌あってこそ、したたかなものですな~