負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬さんの満州は傀儡国家で王子がハリポタならぬハリボテで悲しかった件「ラストエンペラー」

ベルトリッチのいわば入門編のこの映画、思うのは、今ジョン・ローンはどうしているのだろう?

(評価 80点)

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ジックリ腰を据えて見れる映画となれば歴史もの。その時、ふと浮かんだのが、ン十年前に日曜洋画劇場で一度見たきりの本作だった。劇場でも大ヒットを記録した映画とあって放送も画期的な3日間連続放送の拡大版。当時、見た時、感動したのを覚えている。

 今回、見てまずハッとしたのは、全編、セリフが英語だったこと。昔、見た時は、吹き替え版で言語のフォーマットが何かなど当然、意識もしなかった。また、その時点ではベルトリッチの作品としては「暗殺の森」を午後ローで断片的に見た程度でしかなく、今回は、ベルトリッチの作品は「暗殺の森」はもちろん「暗殺のオペラ」、「ラストタンゴ・イン・パリ」、「1900年」、そしてデビュー作の「殺し」ぐらいは見て、その作風の下地ぐらいは踏まえての鑑賞となる。

 やっぱり本作の最大の見どころの故宮での現地ロケーションも圧巻の序盤は素晴らしい。西太后から皇位を継承した溥儀を前に故宮の広場で数万の群集がひれふすシーンには昔もそうだが今回も息を吞んだ。

 でも、今回、もっとも印象的だったのが、ベルトリッチのフィルモグラフィを踏まえている分、いつものベルトリッチのテイストを最大限に発揮しはじめる、中国侵略を開始した日本がその足掛かりとして満州をターゲットに定め、溥儀を日本軍の傀儡として利用し始める後半の凄みだった。昔、見た時は後半になるほど退屈になっていくように感じたのに、今回は逆だったのだ。

 ベルトリッチの作品にある根底のテーマとは、国家によるファシズム。そして、そのファシズムに利用され骨抜きにされた国家とは対極にある人間個人の退廃やデカダンスだろう。そのテーマはベルトリッチの生涯の代表作といえる「暗殺の森」に余すことなく描かれている。

 「暗殺の森」の系列にある作品群からすれば、同じテーマを踏まえつつも本作は十分に分かりやすい。そのテーマを分かりやすく体現し、本作をベルトリッチのキャリアで最大の成功作たらしめたのは、本作でスターとしての地位を決定づけたジョン・ローンの功績でしょう。後半、本作の牽引役となる甘粕大尉役の坂本龍一(本作の音楽もまた絶品)もあいまって、戦犯となった溥儀を演ずるジョン・ローンのフレッシュな存在感には目を見晴らされた。

 そういえば、日本でも一世を風靡したジョン・ローンは今どうしているのでしょう。映画俳優という因果な商売は、常に栄華盛衰がつきものの王朝の王族たちとどこか似ている。『いつまでもあると思うな親と仕事・・』などというけれど(そんな言葉あったっけ)、当然、誰でもキャリアの盛りを過ぎればオファーは減って来る。本人には申し訳ないけれど、何だか自然消滅のようにリタイア同然に消えて行った俳優さんの一人のような気がしてならない。

 本作のラスト。老いた溥儀がポツリとただ一人かつての紫禁城を訪れる。そして皇帝の玉座へ歩み寄ろうとする溥儀に声をかけた子供との会話の後、その姿がハリポタの魔法のようにかき消える。

本作でも唯一といえるこの超現実的なエンディング。 それは思想や時代の動乱に弄ばれた溥儀に対するささやかな慰めであると共にベルトリッチが一人の俳優に示した優しさと感じるのはこの負け犬だけなのでしょうか。