負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬さんの妻と娘をレイプされたから自警主義を始めたはずなのに何かが根本的にオカシイ件「狼よさらば」

あの「タイタニック」のジェームズ・キャメロンが最も嫌いな監督だと激白したマイケル・ウィナーの問題作とは、如何なるものだったのか?

(評価 66点)

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凌辱、強姦、残虐無比!目を背けたくなる暴力的なレイプシーンの、あまりにも即物的で非人間的な描写にただ戦慄する!

 かつて、あの「タイタニック」で有名なジェームズ・キャメロンが何かのシンポジウムで観客とのセッションを交えて講演する映像を見ていたことがある(おそらく「アビス」を公開したばかりの頃だったから大昔の話だが)。その時、観客の一人が最も嫌いな監督は誰か?という意表をつく質問をキャメロンに問いかけたのだ。その時のキャメロンのリアクションのことは、今でもまざまざと覚えている。キャメロンは、まるで吐き捨てるかのようにこう答えた「あいつだよ・・名前を口にすることすらイヤだけど・・マイケル・ウィナーだ」とハッキリ言った。その件については、それ以上言及されることもなく、今に至っても、ジェームズ・キャメロンがどうしてマイケル・ウィナーのことをそれ程嫌いなのか未だに謎なのだ。

 でも、この負け犬は大体の察しがつく。それほど嫌いなのは当然、その監督が作った作品が原因に違いない、そして、ジェームズ・キャメロンがほのめかしていた作品こそマイケル・ウィナーの代表作たるこの「狼よさらば」に違いないと。

 建築家として順風満帆の生活を送っていたポール・カージーチャールズ・ブロンソン)の妻と娘が凶悪なチンピラにレイプされたことから復讐の鬼と化したブロンソンが、自分が司法だとばかりに悪党たちを自ら始末していくというのが内容の、今でいう自警主義映画の先駆けとなった本作。

 とにかく特筆すべきは、ブロンソンの行動のきっかけとなるそのレイプシーンの凄まじさだ。本作の製作年度は何と1974年、今から半世紀近くも前になろうとする・・しかし、そのシーン、時間にしてはほんの1~2分にせよ、その凄絶さ、殺伐さ、俗悪さにかけては今のレイプもののAVが束になってかかっても足元にも及ばないほどの神も仏も微塵もよりつかないような恐ろしさなのだ。

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 まるで女優を家畜以下としかみなしていないような、その扱いの手荒さ、本気で強姦し、乱暴を加え、犯しているかのような超リアリティーには、見てはいけないものを見てしまったかのようなバツの悪さすら感じるほどなのだ。

 ひょっとして、まずはキャメロンの逆鱗に触れることになったのはこのシーンの露骨ぶりではないかと想像する。

 ところが、それを発端としてこの映画はこの後、どんどん捻じれた方向へと進んでいく。何の変哲もない小市民に過ぎなかったブロンソン(どこから見てもタフガイなブロンソンが小市民というのもちょっと・・)がまず最初に悪党を倒すのに使う武器は袋に詰めたコイン。それをブラックジャック替わりに通りすがりの強盗のチンピラに一撃をくらわし、すぐさま逃げて自宅で興奮もあらわに勝利の余韻に浸る(ここのシーンは素直に感情移入できて実に素晴らしい)。そして、その後、親しいクライアントからたまたま譲り受けていたピストルで次々とチンピラを殺し始めるのだ。

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 普通のドラマツルギーに則れば、殺す対象のチンピラと妻と娘をレイプした実行犯との接点がせばまって、最後にその実行犯を倒して復讐を果たせば、ドラマとしてのカタルシスは生み出せる。しかし、本作があくまで異様なのは、途中から妻と娘がレイプされたことなど、ほったらかして、ブロンソンが次々とチンピラを嬉々として殺し始めるのだ。また、そのチンピラの描き方自体も、薄っぺら極まりなく、まるで夜店の射的の標的のように次々、ご都合主義を絵に描いたように出ては撃たれていく。

 しかし、何よりも唖然とするしかないのが、警察は最後に悪の処刑人を気取る犯人のブロンソンを現行犯で確保することに成功する。それなのに何と世論を配慮するとして、ブロンソンを片田舎の州外に逃がすのだ。

 本作は公開当時、ニューヨーク最悪レベルの治安の悪化を受け、社会現象となり大ヒットした。今から思えば、おぼろげに想像はつくけど、どうしてあのキャメロンが唾棄するほどの嫌悪感を示してマイケル・ウィナーを嫌ったのか、その真意は想像の域を出ない。本作よりもっとヒドイ映画はこの世にいくらでもある。キャメロンの敵意の意図を各人で解釈するのも楽しいかも。

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 エンディングは本作で最も有名なシーン。警部のフランク(ヴインセント・ガーディニア)に見送られ州外に旅立つ空港で、ブロンソンが通りすがりのチンピラにニヤリと笑いかけ、人差し指を向けて銃を撃つ仕草をしてみせる。この不敵な笑みで映画は終わる。日曜洋画劇場で放送された時、あのサヨナラおじさんの淀川長治さんが、空港のブロンソンジェスチャーは、これに懲りずにまたブロンソンが悪党退治をやり続けるということをシンボリックに表現しているんですよ~♪と得意満面に語っていた。その言葉通り、本作はあの悪名高いデス・ウィッシュシリーズとして5作を数えるシリーズともなった。