負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬さんが解離性同一性障害に悩んでいたことを知ってビックリした件「バウンド」

マトリックス4」も楽しみだけど、そもそもウォシャウスキー兄弟がウォシャウスキー姉妹に豹変するなんて誰が想像出来ただろう

(評価 72点)

f:id:dogbarking:20210107053135j:plainf:id:dogbarking:20210107053155j:plain

たまたまあのシルベスター・スタローンアントニオ・バンデラスの顔合わせが珍しくて「暗殺者」という作品を借りてみたことがあった。感心したのは実にタイトなその脚本。その時、脚本家の名前を確認したのがウォシャウスキー兄弟の名前を最初に知ったきっかけとなった。

 おそらくこの「バウンド」を見たのも、まだあの「マトリックス」でその名が一躍、世界に知れ渡る前のことだったような気がする。それを見たのも「暗殺者」の脚本の印象が記憶に残っていたからに違いない。その時も、前作よりもさらに磨きがかかった脚本と監督までそつなく手掛けたその腕前にちょっと驚いた記憶がある。だが、その時、もっと気づいてもいいはずのことに十数年後に気づかされることになるとは・・・

 本作をTSUTAYAの棚に見つけてオヤッと思い、再見したのはつい先頃。本作の特徴は、マフィアを手玉に取って大金をせしめるのが女二人のコンビであるところだ。初見時には、そのことを何とも思わなかった。しかし、今回見てみて、これほどまでに監督自らの性的コンプレックスをあからさまに吐露した作品だったとは、と改めて驚いた。

 女二人コンビの一人、5年の刑期を終えたコーキー(ジーナ・ガーション)が、あるマンションの一室に配管工として作業をするところから始まる本作。そこで隣室のマフィア、シーザー(ジョー・パントリアーノ)の囲い者ヴァイオレット(ジェニファー・テイリー)と知り合い、レズビアンの関係となったことからシーザーの200万ドルをせしめる計画を企てる。

 冒頭、コーキーが酒場に入る。そこは女だけの酒場。最初見た時は何とも思わなかったが、今回、そこがまさにムンムンとしたハードゲイのいわゆる“ハッテン場”の女性版の溜まり場であることを実感させられた。そう、この映画、何から何までハードゲイジェンダーが逆転した世界なのだ。

 人間の変化という意味では、この兄弟ほど変化した人間はいない。何せ、兄弟から姉妹に変化したのだから。コーキーとヴァイオレットの激しい性交シーン。そこには当時、兄弟だったウォシャウスキーたちのトランスジェンダーとしての苦悶や激しい肉体的な性的葛藤がそのまま表れている。おそらく本作製作当時に、観客はおろか本作のスタッフにいたるまで兄弟のこうした葛藤に気づいていた人間は一人もいなかったのではないか。

 シーザーに虐げられていたヴァイオレットを半ば、見かねるかたちで大金強奪計画に協力するようになったコーキーは、窮地に立たされるが、ヴァイオレットに気があるマフィアの親玉ミッキー(ジョン・P・ライアン)を巧みに手玉に取って、まんまと200万ドルを手にラスト二人は揚々と去っていく。

 そこには葛藤の苦悶の傷を作品によって和らげた人間への救いがあった。

かくして現在、姉妹の一人ラナ・ウォシャウスキーは、世界の映画ファンの期待を一身に受けて「マトリックス4」を鋭意、制作している。前作「マトリックス」で肉体の足枷から解放され、新人類として再生を果たしたネオのように、性的トラウマからの救済を果し身も心も女性になったラナが女性としてのジェンダーを発揮しどんな世界を見せてくれるか期待したいものです。