負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう崖っぷちの映画録。また、たまに<映画をエンジョイ英語もエンジョイ>と題して、映画の実際のスクリプトを原文と翻訳でご紹介。英語学習気分もちょっぴりどうぞ!

負け犬の正体はおっちょこちょい「ジャッカルの日」

ゴルゴ13みたいなスゴ腕のスナイパーだと思ったら意外と間抜けだった

(評価 70点)

 

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若い頃の一時期、熱心に読んでいた作家がいた。膨大な情報を駆使した政治的スリラーで、情報小説的側面を持つサスペンスというスタイルを確立したフレデリック・フォーサイスだ。マンガやテレビにばかりうつつを抜かしていた自分を活字好きにさせてくれた幾多の作家の一人である。

 とはいえ、同氏の作品をたくさん読んだという訳ではない。もっとも有名な初期3部作と「悪魔の選択」位だろうか。フォーサイスの魅力は、とにかく事細かに綿密に書き込まれているところ。もっとも好きなのは勿論「ジャッカルの日」で、読んでいた文庫本を失くしてしまうたびに、また買い換えて(中古だけど)本棚に置いている、というか置いておきたくなる作家なのだ。当然、映画化作となる本作も昔から知っていた。監督フレッド・ジンネマンの代表作であることも。

 TVの洋画劇場でも確か何度か放送されていたはず、というのも全編をちゃんと見た、と言う記憶が曖昧なのです(笑)最後、ジャッカルがルベルに打たれて壁に吹っ飛んだシーンの断片を覚えていた位。しかし、今に至ってもスナイパー映画の金字塔との世評もあり、ちゃんと見てみようと思い立ち、そそくさと負け犬っぽくいつもの旧作100円レンタルのお世話になって見てみたのだが・・これが意外と何かキャッチーなところもなく淡々と終わってしまっていた。

 う~ん、この引っ掛かりのなさはどうしてだろう。そもそも原作の魅力は、ジャッカルがターゲットのドゴール大統領にジリジリと近付いて行くプロセスを実に緻密に書き込んでいるところ。普通の小説家ならプロットを優先してディティールは省くのだが、フォーサイスの場合、ドキュメントを記述するように、どんな細かなことでもおろそかにはしない。逆にそこが最大の魅力なのだ。たとえばパスポート一つとっても、乳幼児期に死んだ人間を探り当てその出生証明書を役所で入手し・・といった具合に几帳面にその全プロセスが書かれている。その典型は、ジャッカルも人間だから目的地のパリに向かって移動していく道中、あちこちで食事をするが(当たり前だが)、その際、何を食べたかまでが一つ一つキチンと記されている。今思えばこうしたディティールこそが自分にとっては原作の最大の魅力だった。

 だが、この感覚を映像化するのは明らかに難しい。このテイストを自然と期待してしまう人間からすれば、淡泊だなという印象にならざるを得ない。おそらく、原作に接したことがなくて何の傾倒もしていない人からすれば手放しで傑作といえる部類の映画になるような気がする。

 だが、今回一番気になったのは、冷静沈着、完全無欠の狙撃マシーンのようなキャラクターのはずのジャッカルが案外、間抜けな存在に思えたこと。でも、これはあくまでも演出云々の話ではない。かくして、そもそもの映像と活字のギャップという問題に思い当った次第。

 それを痛感したのが、本作の最大のヤマ場、ドゴールをスコープのレンズに収め引き金を絞る緊迫のシーン。ここでジャッカルは見事に失敗する。この第一弾の失敗が命取りとなってルベルに撃たれて殺される。

 このくだりは原作ではこう書かれている。

照準器の十字線の中点が(ドゴールの)こめかみに合わさった。やわらかくやさしく彼は引き金をしぼった-(ところが)炸薬弾が銃口から飛び出す前に、大統領は、ついと頭を前に傾けたのだ

 これは大統領が自分と面と向かって立つ退役軍人に接吻するための行為だったのだが、これについて原作ではこう補足されている

(大統領の祝福の接吻は)フランスその他のラテン系民族の習慣なのだが、アングロ・サクソンであるジャッカルは不覚にもそれに気付かなかった

 どうだろう?こうして活字で読めば何の違和感もないはずだ。ところがこれが映像では、スコープ内に完全に収まったドゴールがゆっくりとした緩慢な動作で首を少し傾げただけに見える・・・これを見て思うのは、こんなノロイ動きにすら反応出来ずにターゲットを外すか?という素朴な疑問。ジャッカルは射撃の名手どころか、案外下手くそなんじゃね、といちゃもん付けたくなるのは自分だけか・・。

 とはいえ総じていえばやはりジンネマンの代表作、全体に音楽を排し、クライマックスの圧巻の(実際のパリ解放記念日キャメラを持ち込んだような)ドキュメンタリータッチのモブシーンと見所はある。

 活字は活字、映画は映画として楽しめる作品ではあるのでしょうね~