負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬には軽蔑を「復讐者には憐れみを」

復讐なんて願い下げだ。でも、それがしりとりのようにつながるとこの上もなく面白い

(評価 76点)

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この映画、実は危うく捨てかけた。「オールド・ボーイ」にノックアウトされパク・チャヌクを知った。(オールド・ボーイは日本公開の半年前に韓国版のDVDをいち早く入手して見た)

 その監督の復讐三部作の一作目ということで、そそくさとDVDを手に入れ鑑賞した。 そうしてまで見たこの作品だったのだが・・・

世に、後味の悪い映画というのは数々ある。しかし、この映画のそれたるや単なる後味の悪さだけではなかった。生理的な嫌悪感にすら見舞われ「もう二度と見るか!」とゴミ箱に捨てかけた。

 でも、何故か思いとどまった。そして、今、この負け犬は、しばらくたった頃合いをみてはこの作品を見ることを繰り返している。

 自分でふと考えてみたことがある。何故だろう?そして分かった。

 この映画には三つの復讐のパラダイムが登場する。

 結局、その復讐がしりとりのようにつながって連鎖する巧みな脚本に圧倒されたいのだ。復讐に引火する導火線は人間の不幸だ。人間、他人の不幸があれよあれよと数珠つなぎに眼前で繰り広げられることを見物する誘惑には抗えない。しかし、この映画の場合、それは見物などという生易しいものでは到底ない。容赦なく痛いのだ、おそらくだから見るのだ。

キーパーソンとなるのは聴覚障害の青年リュウリュウは最愛の姉の腎移植のために闇の臓器移植の業者に接触するが、まんまとだまされ、移植用の金はおろか自分の腎臓まで抜き取られ、ついには革命分子を気取る恋人にそそのかされ、社長の幼女の誘拐を企てるが・・・。

 闇の臓器業者と共に天国の階段を上るのかと思わせる比喩的なシルエットショット。そして、会話の無言の間。一切の説明的な描写を排し、簡潔なカットだけで表現する、そうしたキタノ映画を思わせる手法がここでは絶大な効果をあげている。

 聴覚障害の世界を字幕で表現するブラックユーモアにはニンマリさせられる。しかし、その聴覚障害を、主人公が奈落の底に落ち込む伏線に用いる卓抜さもこの映画は忘れない。(それが最大限に生かされた幼女の水死シーンには誰もが目をそむけたくなるはずだ)

また、この映画でもう一つ面白いのはそれぞれの復讐のパラダイムに簡潔な色分けがなされていること。キーパーソンの青年はいわば、プロレタリアの代表。娘を誘拐される社長はさしずめブルジョアの代表。そして、中庸的な立場で復讐の連鎖に鉄槌を下すのが、革命派のテロリストたち。

これらのキャラクターたちが織り成す因果の顛末は是非、ご自身の目でお確かめいただきたい。

おそらく見た後は、メンタルがとてつもなくダウンするはず。でもそのどん底を味わったら、やがてその甘美さが忘れられなくなるはず。そうすればきっとあなたも負け犬の仲間になるに違いない