負け犬は拷問マニア「ホステル」
舌の嫌な味わいには、ミントのような爽快なお口直しが欲しいよね
(評価 69点)
昨今、イヤミスという言葉がすっかり市民権を得ている。イヤミスは読後感の後味が悪いミステリーだが、映画についてはイヤエイではなく、これもまたある程度浸透している「嫌な映画」ということになる。
かつてクェンティン・タランティーノが本作を紹介するにあたって、嫌悪感をエンターティメントにしたホラーだと言っていた。本作の監督のイーライ・ロスはタラちゃんのあの超絶的傑作「デス・プルーフ」にも出演し、その知己からかタラちゃんは本作冒頭、タランティーノプリゼンツと出て来る(プリゼンツってどういう役どころだろう?プロヂューサーでもないし)。
ともかく、通常なら負け犬ならではのヘタレで、この手の拷問系グロ映画はシャットアウトして目を背けるだけなのだけど、タラちゃんプリゼンツの威光と、世間の評判もそんなに悪くなかったこともあって、おそるおそる見たという次第。
結果、意外なことに楽しめ、そして驚かされた。まず驚かされたのは、直接的なグロ描写が意外なほど少なかったこと、そして何よりもまずストーリーを明快に語る映画であったこと。さらに驚いたのが、そもそも嫌悪感を催させるのが売りの映画なのに、最後の最後にカタルシス、つまりちょっとした爽快感があったことだった。あまりにも気に入ったので、それからは何回も見て、おまけに続編のホステル2まで見ちゃった。
欧州をバックパッカーとして旅するパクストン、ジョッシュ、オリーの3人組。道中、いけるオンナの子がわんさかいるぜ、とそそのかされ、その甘い言葉に乗ってスロバキアへと向かう。そこはまるでおとぎ話に出て来るようなキュートな町。そこには、やっぱりそれに負けず劣らずのキュートな女の子が山ほどいて、紹介されて向かったホステルには、ウソのようにとびきりゴージャスなルームメイトまで。さっそくパクストンたちは、おっぱい丸出しのルームメイトとしけこみご機嫌なホステルステイを満喫するが、まずオリーが姿を消し、次いでジョッシュも、そして二人の行方を探すパクストンが、二人はエキシビジョンにいるのよ、と女の子にそそのかされ、連れて行かれたのはエキシビジョンならぬトーチャー・マニアたちが集う拷問クラブだった。
ゴアが控えめとはいえ、クライマックスには、その手のまさに吐き気を催すような描写がイヤほど出て来る。しかし、ある意味、やりすぎで、チープ(特に日本人の女の子の目ん玉飛び出し)な描写に徹することで、何故か奇妙にメルヘンチックな感覚まで覚える気がしてくるから不思議だ。
とりわけ、オリーやジョッシュたちがトーチャーたちの餌食になったことを目の当たりにし、その場で捕まったパクストンが、チェーンソーでなぶり殺しにされかけた瞬間、吐瀉物を吐き散らしたことで偶然にも反撃に転じ、クラブからの脱出をはかるシークェンス。
台車に山積みになっているクラブの死体処理人の男が切断した手足にまぎれ、そのままパクストンが死体になりすまして運ばれていくシーンには奇妙なブラックユーモアとまるで極彩色のグリム童話を読んでいるような奇妙な寓話性を感じた。
そう、この映画、不思議なことに滑り出しから、あの宮沢賢治の有名な怖いおとぎ話「注文の多いレストラン」でも読んでいるような童話的な面白さがある。見る前から、その後の展開は分かっている。しかし、分かっているのに語り口の面白さでつい引き込まれてしまう、あの感覚だ。
そして、この90分というタイトな長さのエンディングには、ゴア描写で抱いた嫌悪感のお口直しといっても良いカタルシスが待っている。昨今、特にホラー系の映画では曖昧模糊に終わりがちな映画が多い中、やっぱり、こうしてちゃんと落とし前をつけてくれるのは有難い。
見た後、思う、ホントにこんな拷問クラブが実在するんじゃねえかって・・でも、後で気付かされるんですよね、スロバキアという東欧の国を舞台にしたことが、そんな都市伝説のような存在をほのめかすことに絶妙な効果を上げていたことに、それがこの映画の大ヒット、シリーズ化までされた理由であり、製作サイドの狙いがドンピシャで当たったということなのでしょう。
にしても、この映画を見て催す悪感に肌を逆立てていたら、学校時代、あの黒板を爪でひっかく音を思い出した。この拷問クラブにはあの手のメニューはあるのでしょうかね・・・・