負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬はあきらめない「パージ:大統領令」

決して負けを認めようとしない、負けず嫌いの人っているよね

(評価 59点)

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時は、全米が4年に一度の大統領選に沸く2016年。年に一度、犯罪を含むすべての犯罪を合法化するパージ制度を掲げる共和党ドナルド・トランプが、下馬評では有利とされた民主党ヒラリー・クリントンを破り第45代大統領となったのは記憶に新しいところ。

 以来、全米では毎年、年に一度のハロウィンならぬパージナイトが今に至っても執り行われている。その夜は誰もが自由に誰かを殺し、朝までの12時間を心ゆくまで楽しみ、そのカタルシスを糧に翌日からの日々の暮らしや経済に役立てている・・・・というのは全て真っ赤なウソだが、2016年の大統領選のタイミングにドンピシャで本作が封切られたのはホント。さらに、その心憎いばかりの封切タイミングのおかげでシリーズ第3弾にもかかわらず本作が全米で超絶大ヒットとなったのも記憶に新しい。そして、そのトランプがこのたび見事に民主党のバイデンに負けを喫し、(2020年12月現在)未だにその負けを認めていないことも。

 思えば、トランプの四年間、結局、メキシコとの国境の壁も建造出来ず、ただ人種差別やヘイト・クライムを煽る殺伐とした米国に塗り替えただけだったような気がする。元々、2013年の「パージ」から始まる本シリーズがそんな不穏な米国の始まりを告げる予兆だったといえば言い過ぎか。

 ともかく、本作、今回は時事情勢を巧妙に見越してその切り口をはっきりと政治に据えている。果たしてそれが吉と出たのか、はたまた凶と出たのやら・・・

 台頭めざましい上院議員のチャーリー・ローン。彼女にはかつてパージで家族を惨殺された過去があった。その過去から反パージを掲げ躍進を続ける彼女に業を煮やした与党は彼女の抹殺を企てる。冒頭、描かれるこのイントロ。大抵の人は、この導入部だけで、その後に展開されるストーリーの予想はつくだろう、この想定のバーを越えてみせるかが、作り手の腕なのだが。

 今回、前作のレオ(フランク・グリロ)がそのまま、ローンのパージの一夜のボディ・ガードとして出てくる。しかし、レオの仲間のシークレットサービスに内通者がいて、レオは与党配下のグループの襲撃をすんでのところで逃れ、ローンと共に犯罪フリーのパージナイトの野に放たれることになる。

 今回のキー・キャラクターのローンは冒頭、パージが弱者を排除する制度に他ならないと唱えるが、そもそもパージって排除もクソもなくぶっ殺すわけだから、言っていること自体ナンセンスだとまず誰もが白ける。政治を切り口に展開するという手法は必然にせよ、政治という観点からパージの是非を問うという感覚が持ち込まれてしまうと、有り得ないパージをまじめに議論すること自体アホらしいということになってくる。

この映画のキビしいところは、その後の展開がそのまま前作の二番煎じの域を出ることが出来なかったところ。かくして、ストリートをローンと共に逃げるレオは、同志と組んでパージに反発する黒人女性に救われる。そして連れていかれた先がレジスタンスたちのアジトなのだ。

 結局、そのレジスタンスの拠点を軸に描かれる後半。悪政VSレジスタンスという、ある意味、うんざりするほど見飽きた展開に落ち着く。そこで繰り広げられる、パージそのものがほぼ無意味になって、それとはほぼ無関係なアクションシ-クェンスを見るにつけ、もうこの設定で作り続けることが無理なことが露呈してくるところはツライ。

 結局、製作陣もそれをわきまえているのか、エンディングはパージの終焉を匂わすポジティブな未来を示唆するところで終わる(皮肉なことにその年、現実ではトランプが勝利し、米国の暗黒の4年間が始まるわけだが)。

 それでいさぎよく終わっていれば良かったものの・・狙い通りとはいえ大ヒットとなりゃ、終わるわけがない。というわけでこのパージ、前日談という一番やってはいけないパターンで凝りもせずに次回作を作ってしまい、まあ、悲惨な末路を迎えてしまう。

 というわけで、やっぱり人間、万事潔くないといけないよね、負けず嫌いのトランプさん!