負け犬の始まりは穴・・だった
(評価 64点)
いきなり見たくなって、「007は二度死ぬ」を数十年ぶりに見たら、特典にあの有名なタイトルバックにまつわるドキュメンタリーがあった。
あの余りにも有名な冒頭のタイトルバック。銃口の見た目のショット。ガンバレルショットというらしい。それをデザインしたのがモーリス・ビンダーというプロダクション・デザイナー。超有名なソール・バスは知っていたけど、今さらながら実は全く名前を存じ上げていなかった。
ということもあって、興味深く見ていたら、最初に手掛けた「ドクターノオ」のタイトルバックが瞬間的に出てきて、俄然、興味が湧いて、これも今更ながら007シリーズの第一作、オリジンを見たという次第。
見た感想はといえば・・まあ~のどかでした(笑)。キッチュな見せ場てんこ盛りな「007は二度死ぬ」を先に見ていたせいもあって、その落差には正直凹んだ。何といっても4チャンネル・ステレオ・サウンドですから。とはいえ、本作、実は子供の頃にもテレビで見ていた。(確か月曜ロードショーだった)その時もあまりのイモっぽさ、古臭さに幻滅した記憶があり、今回ン十年ぶりの再見を果したわけだが・・。
冒頭、お目当てのビンダーのタイトルバックが出てくる。ここでまずギャフンとなる人が多いのかも。だって出てくるのはマルのマークがポコポコ点滅するだけだから。実に素朴なものなのだ。でも、しかし、マルと矢印というやつはデザイン的な効果として最もシンプルかつインパクトのあるデザインだと、昔、デザインの授業か何かで聞いた記憶がある。ある意味、まずはつかみの選択としては正解なわけで、ジェームズ・ボンドのオリジンはマルだったというのも温故知新としては興味深いのかも。やがて、盲人の殺し屋3人組がヒョコヒョコ歩くシルエットに変わり本編へと。
本作、見せ場といえば後半のドクターノオの島に潜入してからやっと重い腰を上げるといった感じなのだ、それまでの前半部分はまあボンドがうろちょろしているだけ、普通であればまあ退屈、現に昔見た時もそうだった。ところが、今回はちと違った。シリーズ売り物の派手なアクションもガジェットも出てこない分、当たり前の話だが、ボンド、いやショーン・コネリーその人の全開の魅力が立ちに立っているように感じられたのだ。
社交場のテーブルで数人がカジノに興じている。カードを配る男はキャメラに背を向けその顔はあくまでも見えない。やがてカードを配る手のアップからバストショットに切り替わり、差し向いの客の女性に名前を聞かれたコネリーの顔のアップになった絶妙なタイミングで吐くセリフが、あの有名すぎる「ボンド、ジェームズ・ボンド」という例のやつ。
このシーン、今回見て正直、ゾクっとした。エンタメ映画史にその名を燦然ととどめる、ザ・ビギンに立ち会った感慨からか、旨すぎるテレンス・ヤングの演出のせいか。
だが、ボンドだけではない、後半、島に上陸直後にまるで陸に上がった人魚のごとく出てくるのが、白いビキニのウルスラ・アンドレス。何のことはない、これを見たかっただけなのだ、といえば身も蓋もないのだけど見たかったのには間違いない。そのセクシーダイナマイトぶりは子供の頃に瞼に焼き付いたそのままだった。
その後は、シリーズお馴染みの秘密基地がやっぱり出てきます(ショボイけど)。その前には火炎放射の装甲車っぽいチャチな兵器も一応、出てきます。
でも、やっぱり本作、一番の見どころはショーン・コネリーの身のこなし、その立ち居振る舞いなのだ、それをたっぷりと堪能できた一作だった。
何のことはない、今さらながらの007、本作にすっかり触発された自分の胸に地球征服ならぬ、シリーズ全作制覇という野望すらも芽生えてしまったのでした。