負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬はタクシーがお好き「コラテラル」

相手によっては乗車拒否したい時もありますよね

(評価 55点)

 

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そもそも期待をするなという方が無理というもの。監督が、漢映画が好きな奴なら嫌いなわけがないマイケル・マン。主演の殺し屋がトム・クルーズ、巻き込まれるタクの運ちゃんがジェイミー・フォックスとくれば垂涎ものというわけで、半ば傑作間違いなしと踏んで見始めたものだった。

 設定だけは分かっていた。トム扮する殺し屋が一夜で5人の人物を殺すためLAに乗り込んで来る。たまたま乗り合わせたタクシーの運ちゃんがフォックスで・・果たして夜明けのタイムリミットまでに5人を殺せるか、という設定だけ聞けば誰だって身を乗り出すじゃないですか。

 ン??となる殺し屋が何でそもそもタクシーに・・という設定にしたって、きっと重要なストーリーの伏線に違いない、というわけで、滑り出しは快調そのもの、フォックス扮するドライバーのルーティンワークを描くシーンの素晴らしいこと。

 たまたま拾った女弁護士と道路事情で賭けをしつつ流す夜のシーンなど、その絶妙なBGMもあいまって悶絶しそうなほどに美しい。

 そしていよいよトム演ずる殺し屋のヴィンセントの登場。白髪にグレーのスーツ姿もビシっと決まり、如何にも腕利きの殺し屋といった佇まいに思わず見惚れる。そして、マックスがヴィンセントの言われるままに向かった先で・・・ヴィンセントを一旦、降ろし、そのままヴィンセントが入っていった建物から出るのを待っていると、いきなり男が空からタクシーの上に落ちてくる!!

 ここで何だか嫌な予感が背筋に走る・・(汗)

 そしてヴィンセントはパニクるマックスを脅して、何事もなかったかのように、そのまま屋根が凹んだタクシーに乗って次のターゲットに向かうのだ・・?でも、おい、腕利きの殺し屋がそんな目立つ殺しをするか?

タクシーの上に人が落ちたら、確かに絵としては派手で面白エけど、目撃者のマックスを殺しもせずにそのまま次のターゲットまで大破したタクシーで向かうのはいくら何でもオカしいだろ・・と頭の中が??マークで一杯になりながらも、きっとこれには何らかの理由があってと、言い聞かせて見ていたら・・。

 何にもない、本当に何もない。結局、乗り合いバスよろしく、殺し屋のヴィンセントとマックスがブーたれながら一夜の殺しの行脚を続けるのだ。

 何で、何でレンタカーじゃダメなの!何でタクシーじゃなきゃダメなのという疑問符が解決されないまま映画も後半。そこに待っていたのは口をアングリ開けて、アングリーな怒り心頭にしかならない、とんでもないご都合主義が待っている(このトンデモご都合主義は映画の結末部分に抵触しますのでお話しできません、イヤ、話す気にすらなりません)

 そして結局、何だったの?という感じで映画はマイケル・マンお得意なメロウな雰囲気で終わる。

 確かに殺し屋が一晩タクシーを貸し切りにして、一人ずつ殺していくという設定は面白い。でもさ、負け犬の分際で言いたくはないけど、それが誰でも納得できるだけの理由がいるよね。その理由を思いつくかつかないかが、そもそもこの設定がフィクションとしての話として成立するかどうかの大きな分岐点だと思う。その一番ムズかしい部分をすっとばしてラクな方向に流れしまっていると思うのだが。

 ただ、この作品、さすがはマンだけあって高精度のデジタルカメラで捉えられた夜のシーンは素晴らしい。ただの闇の夜にむせかえるほどの光と色彩が溢れている。このシーンだけでも見物といえば見物だが、それだけではちと寂しい作品といえる。

 単にヴィンセントがペーパードライバーの運転恐怖症という設定にでもしたら、俄然、ストーリーに説得味が加わって走り出したかも・・