いったい、マフィアの姉さんとあの「風の谷のナウシカ」に共通点があっただなんて誰が想像出来るだろう
(評価 80点)
いやぁ~!あのグロリアのオープニング、素晴らしかった。今度、オレが作るアニメにパクッてやろう・・というガラの悪い口調ではないけども、アニメ界の巨人で大の負けず嫌いの宮崎駿氏はキネマ旬報の風の谷のナウシカの記事の掲載号で確かに仰っていました。現在、その実物はないので記憶を頼りにのたまわっています。
奔放にビル群が描かれたカラフルな子供のラクガキを思わせる絵。キャメラがその絵から横移動にパンするとなめらかなビルの空撮の実景に重なっていく。それにあのビル・コンティの名曲がかぶさって・・と思い出しただけで鳥肌が立つ、あのグロリアのオープニングだ。でも、壁画風の素朴な絵からの横移動で本編に突入していくナウシカのオープニングを想起すれば、それがあながちドンピシャなのは誰でも分るはず。
実際、その頃の宮崎駿はどんなものからも貪欲に吸収して作品に取り込んでいこうというバイタリティがその記事にも満ちていた。
というのはあくまでも余談で、本題はグロリアだ。
最初に見たのは忘れもしない月曜ロードショー。以来、とりわけ導入部のオープニングの美しさが忘れられず、録画テープが擦り切れるほど見たのはもとより、DVDに鞍替えしてからも何はともあれ見続けている。
本作のグロリア姉さんは本当に素晴らしい。初めはまとわりつくフィルに半ば嫌がっていた姉さんが、スパニッシュ・ハーレムの暑気がむせかえる路地で、マフィアどもが向かってくると見るや決然とスミス&ウェッソンをぶっ放し、車を横転させるあのシーン。痺れるどころの話ではない。(この映画の中のマフィアたちの面々。カサベテスの映画仲間の脚本家などの素人を使うことで抜群のリアリティがあったのも忘れ難い)
ところで負け犬には今も大切に保管している一冊の雑誌がある。1990年発行の『SWITCH』。実はこの号、一冊丸ごとジョン・カサベテスの特集号なのだ。
資料的な価値はもとより、何よりも家族を愛し映画製作を愛したカサベテスを様々な角度からイントロダクションする装丁が抜群に美しく、負け犬には宝物のような存在となっている。
その中でカサベテスは「グロリア」についてこともなげに述べている。~あれはただのエンタメ志向の作品だったよ~と、でも公開時のロードショー誌の映画評では、エンタメに降り切れていないところをマイナスに挙げる評論家が多かった。果たしてグロリアとフィルはマフィアたちの手を逃れて助かったのかどうか、まるでハッキリしないラストを見れば確かに誰でもそう思う。
実際、この映画もスタジオの試写では酷評を受け、オクラ入りしかけたところを救ったのが、この映画を唯一気に入ったスピルバーグだった。
スタジオシステムとの葛藤に常に悩んで苦しみながら映画作りをしていた様子は手元のSWITCHからも手に取るように分かる。その苦悩からか、あのデ・パルマの「フユーリー」では最後に頭を爆発させていた。
いびつだが、そのエンタメになりきれない微妙なニュアンスを味わいたくて負け犬は今後もこの映画を見続けることだろう。
にしても、ミヤザキさんって・・少々、勝手な人だな~と思うのはこの負け犬だけか・・。一度は引退するって言っといて、スタジオジブリの社員を全員クビにして、気が変わったからって、また人集めしてアニメ作ってんだもんな~(負け犬の遠吠えとして聞き流してくださいね)