負け犬的映画偏愛録

崖っぷちの負け犬が、負け犬的な目線で偏愛する映画のことを好き放題のたまう映画録。

負け犬の拾い物には福が来る一粒で二度おいしいサスペンス「LAST EMBRACE(最後の抱擁)」

ヒッチコック映画そのままの既視感とデ・パルマ映画そのままの既視感も合体したら実に乙なもの、バーゲンセールのようなお得感満載の日本未公開の上出来サスペンス!

(評価 70点)

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お宝映画発掘隊

 こと映画ハンティングに関しては、本当に幸福な時代になったもの。日本未公開のお宝的な拾い物が居ながらにして発掘出来るのだから。というわけで、毎度お馴染みYoutubeでハントした日本未公開映画の本作。

あの「羊たちの沈黙」で名高いジョナサン・デミが1979年に監督した本作は、職人監督としてTV、映画に多数その名を連ねてきたデミが、器用な多才ぶりを存分に発揮して、まるでヒッチコックデ・パルマの映画をそのまま見ている気分にさせてくれる、かなりお得気分満載のサスペンス映画だ。

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ヒッチコックデ・パルマの絶妙なブレンド

 本作の主演はロイ・シャイダー。70年代末といえばパニックからアクション、サスペンスまで八面六臂で活躍していた時代。本作でロイ・シャイダーが演じるのはハリーという諜報機関員。

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 冒頭、いきなり乱射事件に遭遇し、妻を失ったハリーが、その後、出会ったエリーという女性と深い関係になるうち、ユダヤの慣習にまつわる連続殺人に自分が巻き込まれていることを悟るという本作は、そのテイストからビジュアルまでヒッチコックそのまま。しかし、決して物真似に成り下がることなく、ヒッチコックファンも、更には負け犬のようなデ・パルマの大ファンまで楽しませてくれる、その巧みな作りには感心することしきり。

 これは、見ている間中、このシーンはあの「めまい」のシーン、これはデ・パルマの「愛のメモリー」のあのシーンと頭の中で次々とリフレインされるのが心地よかったりするちょっと新鮮な感覚だった。

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 その上、クライマックスはこれまたヒッチコックの「めまい」や「北北西に進路を取れ」といった作品群をそのまま見ているかのようなナイアガラの滝で、名所観光気分も味わえるオマケ付きとくれば。もう文句はない。

 足早に展開するプロットをあれよあれよと見ていくうちに、たちまち時間が過ぎていく本作。見終わって思ったのは、これが日本未公開とは何と勿体ないことよ、だった。でも、そんな作品と、Youtubeで、それもタダで鑑賞できるのだから、つくづく有難いものだと、ここはひとまず深々とネット社会の恩恵に感謝というべきなのでしょうね~

負け犬の狂気のスナイパーは大群衆に燃える「パニックインスタジアム」

サスペンスとパニック映画、どちらの醍醐味も存分に味わえるマルチジャンルなエンタメ良品(評価 72点)

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 開巻、たちまち響く一発の銃声。スナイパーがスコープ越しに捉えたのは、連れ立って自転車でツーリングする一組の夫婦だった。そのまま倒れこみ、血に染まった夫を見て悲鳴を上げる妻を横目に、冷徹にライフルを解体するスナイパーをキャメラは一人称の主観ショットで捉え続ける。そして、次にスナイパーが向かったのは、チャンピオンシップを見るため続々と観衆が集まりつつある、爆発寸前の熱気を孕んだ、アメリカンフットボールのスタジアムだった!

 如何にもサイコパスなスナイパーの行動を黙々と捉えるサスペンス調のイントロから、スタジアムにフレームインするや一転して、キャラクターが入れ代わり立ち代わり描かれるグランドホテル形式になり、その中の一人にあのチャールトン・ヘストンが登場とくれば、これはもう立派なパニック大作、というわけで、サスペンスの醍醐味とパニック映画の醍醐味がどちらも存分に味わえる本作。

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 今ではマルチジャンル・ムービーというのは珍しくもなくなったが、1977年公開の本作は、そのマルチジャンル・ムービーの先駆的作品と言えようか。それに加えて本作は、映画やTVでもお馴染みの警察組織の狙撃部隊のSWATに初めてスポットが当てられた作品としても有名。

 とにかく本作は、この負け犬も大好きな社会派サスペンスの傑作「ある戦慄」でも出色だった監督のラリー・ピアースならではのドライでクールなタッチから、終盤に至って一気に、ハリウッド大作パニック映画本来の見せ場たる怒涛のクライマックスへと打って変わるそのメリハリの転調が最大の魅力。

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 そして、本作におけるパニックのトリガーとは、ずばり大群衆。スタジアムのメモリアルの高台に身を潜め、警察陣の一行が、時限爆弾を見守るが如く、リモートで監視していたスナイパーが、試合の後半の2分間のタイムアウトに、いよいよ超満員の大観衆に向って、無差別射撃を開始。その瞬間、堰を切ったように群れを成して右往左往して狂ったように超満員の観衆が逃げ回る怒涛のモブシーンは、ただ圧巻としか言いようがないほど凄まじい。何度見ても、よくぞこれだけの数、そして本気モードで逃げ惑うエキストラをかき集めたものだと感心する。

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 ヘストン演ずる警部のホリーとSWATのクリス(ジョン・カサベテス)の決死の突入で、ようやく仕留めた犯人が結局、動機も明かされぬまま絶命する無常観に、社会派ならではの監督ラリー・ピアースのタッチが冴える・・・と思っていたら、実は本作、本国米国でTV放映の際には、この射撃の犯行自体が、スタジアムの近辺で行われていた美術品強奪犯人たちが計画した陽動作戦だったことが明かされる1時間ものシーンが追加された特別バージョンで放送されたというから驚く。

 本編通じて犯人の行動は常に犯人の主観ショットで描かれる、だから犯人はサイコパスで、犯行自体、無差別犯罪だと誰もが思う、だとすればこの展開は、一種のどんでん返しだと言えなくもない。そちらのTV版も怖いもの見たさでいつか見たいものですよね~

負け犬もラストに驚愕した逆転の監禁飼育の恐怖「ロザリー残酷な美少女」

美少女が男を監禁飼育する!その果てに待ち受ける衝撃の結末とは!?70年代B級タイトホラーの拾い物の傑作

(評価 70点)

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懐かしの「ゴールデン洋画劇場」

 その昔、といっても大昔だが、あの「ゴールデン洋画劇場」で、「未公開映画傑作選」なるラインナップを立て続けに放送するという、まるでB級映画マニア向けに特別にアンテナを振ったかのようなイベント企画をプランニングしてくれたことがあった。

 何週間かにわたって放送され、ジャンルとしては必然的にホラーのカラーとなるその作品群で、ひときわ抜きんでていたのが本作「ロザリー残酷な美少女」だったのだ。

 社用でLAに向かう一人のセールスマンが、一人の少女のヒッチハイカーを拾ったことから悪夢が始まるという本作の見所は、何と言ってもショッキングなそのラスト。もう何十年も前になるというのに、負け犬も、この衝撃的なラストカットだけは記憶の淵にくっきりと残っていた。

 もともと未公開映画、ゴールデンタイムとはいえ企画モノでスポット的に放送されただけの作品とあって、本作の衝撃は、記憶の澱に残りつつも作品そのものは忘却してしまっていた。しかし、ひょんなことから本作のことを思い出し、IMDBで原題を探り当て、例によってYoutubeで検索してみたら、何とヒットし、ほんとうに、何十年ぶりかの再見を果たした次第。今は、こんな形で映画と再会できるから、スゴい時代になったものだよなと、しみじみ思いつつ、見た本作は、セブンティーズ・テイスト満載の、記憶に違わぬ快作だった。そして、あのラストカットの衝撃を再び味わうことが出来て、ある種の感慨すらあったのだ。

 

パクリの帝王

 かつて大ベストセラー作家としてその名を轟かせたスティーヴン・キング。ベストセラー作家とはいいつつ、パクリばかりやっていたこの三文作家の代表作とされる「ミザリー」。実はその「ミザリー」、キングが本作「ロザリー残酷な美少女」をそのまま臆面もなくパクッて書いた作品なのだ。パクリであることは誰が見ても一目瞭然、それ以前にタイトルを聞いただけで誰でも分かる。

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 ただし、キングがパクリたくなるのも良く分かる。それほどまでに、本作「ロザリー残酷な美少女」は、一人の少女が、成人の男を監禁し、飼育するという異常なプロットを、きっちりと巧みにワン・シチュエーションに落とし込んでタイトなスタイルで描き切っている傑作だからだ。

 荒れ地にポツンと立った掘っ立て小屋。ネイティブの少女ロザリー(ボニー・ベデリア)が歌を口ずさみながら穴を掘っている、ロザリーは死んだばかりの父親を埋葬しているのだ。こんな出だしから本作は始まる。そして、道すがらセールスマンのバージルの車にヒッチハイカーとして乗り込んだロザリーは、そのまま自分の小屋にバージルを誘い込む。

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 たった一人で住むロザリーに同情したバージルは、しばし、ロザリーと時を共にするが、ロザリーはいきなり斧を掴むと、その斧を振り下ろし、バージルの足の骨を折る。「たった一人で暮らしたくなかったの・・」かくして、バージルとロザリーの砂漠での二人きりの奇妙な生活が始まる。

 本作はこのプロットの通り、登場人物は、ロザリーとバージル、そしていかれたヒッピー風のバイカー、フライのたった三人だけ。舞台劇と言ってもいい、スモール・スケールの本作だが、凡百のホラー映画などより、抜きん出て抜群に面白いのは、この負け犬のホラーのマイベストにもランクインしているあの傑作「悪魔の追跡」を撮った監督ジャック・スターレットの職人芸に負うところが大きい。

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 更には、ネイティブの少女として、幼いながらも危険極まりない異様なエキセントリックさを備えたロザリーを演ずるボニー・ベデリアの魅力に尽きる。このボニー・ベデリアの少女の幼さと、大人の女のエロさを備えたビキニ姿は、最大の見所というべきか。

 足を折られ、寝たきりと化したバージルと暮らす二人の生活に、金目当てのバイカーのフライがハイエナのように介入した時、二人だけのパラダイスは破綻する。そして、くだんの衝撃のラストが待ち受ける。

 本作でロザリーを演じたボニー・ベデリアは、後にあの「ダイハード」のマクレーンの奥さんホリーとして世界中にその顔が知られるようになる。後の面影の片鱗が垣間見える、ボニー・ベデリアのコケティッシュさも魅力の一つといえるでしょう。

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 こんなにエロ可愛い女の子になら、たとえ足をへし折られても監禁されてみたいと思う負け犬は、立派なマゾヒストかもしれませんね~

負け犬の親子で落ちるロンドン橋「キャット・アンド・マウス」

70年代TVムービーの隠れた傑作!お宝映画発掘隊が発掘した良作には新たな発見も、それはカーク・ダグラスマイケル・ダグラスの意外な接点だった

(評価 68点)

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ビバ!セブンティーズTVムービー

 「キャット・アンド・マウス」?何それ?そんな映画あったっけ?それもそのはず本作は、本国米国でしかオンエアされていない貴重なTVムービー。そして、70年代に山のように量産されたTVムービーのハイクォリティをそのまま証明するかのような傑作TVムービーだ。

 主演はカーク・ダグラス。あのマイケル・ダグラスのお父さんといった方が、分かりやすいか。本作は、そのカーク・ダグラスが社会のシステムから見放されたドン底の落伍者ジョージに扮し、完全に社会から排斥された疎外感から一線を踏み越えていく一人の男を演じたサスペンスの隠れた傑作なのだ。

 

悲しきジョーカー

 元、高校教師のジョージ(カーク・ダグラス)は、学校では生徒たちからマウスィ(ネズ公)とニックネーム呼ばわりされ言い返すこともしなかった卑屈な小心者の男。妻のローラ(ジーン・セバーグ)とも離縁され、今はカナダにいて、新しく見つけた恋人との結婚を間近に控えたローラと、今も愛着捨てがたいローラの連れ子の息子に執着し続けている。

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 ある日、持ち家と私財全てを売り払ったジョージは、カナダにいるローラの元へと旅立つ。しかし、ジョージを拒絶するローラに対し、ストーカーまがいの行為を繰り返すうち、ジョージはいよいよ一線を越えてしまい・・。

 社会の落伍者に完全に成り下がった一人の男が一線を踏み越え、社会に復讐する。今で言えばジョーカーといったところだが、あちらは所詮、コミックブックのキャラクターでしかなかったのに対し、こちらのジョージの現実的な造型には、言いようのないリアリティがある。そのジョージがただ妻のもとへと向かっていくという、単純な構造の中で、異様なテンションが高まっていくカーク・ダグラスの絶妙なキャラクター造型の妙が秀逸だ。

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 加えて、舞台となるカナダでのオールロケーションによる効果、更にはやはりあのカナダ産ホラーとしても有名な「暗闇にベルが鳴る」にも使われたカナダの都市伝説を、クライマックスに巧みに取り入れて、真っ暗闇での、ジョージとローラとの、ヒッチコック顔負けの、決死のかくれんぼのサスペンス演出にも感嘆することしきり。ひとえに70年代TVムービーのクォリティの高さを改めて思い知らされた次第。

 

フォーリングダウンとの共通項

 落ちこぼれた一人の中年男が、元妻の元へとトボトボと向かう。そして、その道中で、一線を踏み越えた男が社会の脅威になっていく。このプロット、どこかで聞いたことがないでしょうか?

 そう、本作カーク・ダグラスの息子マイケル・ダグラスの代表作と言ってもいい、ハイパーテンション・ムービーの傑作「フォーリングダウン」。本作を見ていて、気付いたのがその事。そして、みているうちに、それはまさに確信に変わった。

 ロンドン橋、フォーリングダウン~♪ 劇中でロバート・デュバル扮する刑事のブレンダガストが口ずさむ唱が印象的なくだんの「フォーリングダウン」。何よりもキャラクターのルックスがそっくりそのまま。どこから見ても実直なサラリーマン、そして顔には、いかにもダサい黒ブチメガネ。それどころか、後半にいたっては、そのメガネにヒビが入り、そのメガネをそのままかけて行動しているところまで、本作におけるジョージは「フォーリングダウン」でマイケル・ダグラスが演じたディフェンスにそっくりなのだ。

 おそらくマイケル・ダグラスは「フォーリングダウン」でのディフェンスの役作りに、父親の本作のジョージのキャラクターをそっくりコピーしたに違いない。

 親子ゆえ、顔も形も設定も何から何までそっくりで、そのままそっくりコピーしたかのようなキャラクター。なにか親子の因縁すらも感じさせてくれるTVムービーの良作でした~

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上は本作のジョージに扮したカーク・ダグラス。下が「フォーリングダウン」の息子のマイケル・ダグラス。あまりにも良く似ていませんか?

 

dogbarking.hatenablog.com

 



 

負け犬の背筋も凍るちゃぶ台返し・・じゃなかった・・どんでん返し!「悪魔のような女」

ラストに待ち受ける衝撃!誰もが大好き、負け犬も三度の飯よりも大大大好きなどんでん返し!たとえ結末を知っていてもサプライズが味わえる、どんでん返しの正統派ともいうべき傑作サスペンス

(評価 77点)

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どんでん返しの解剖学

 人は何故、どんでん返しに驚いてしまうのか?そして、どんでん返しのサプライズに見舞われた時、人はどうして、一瞬、我を忘れて、性的リビドーにも似た陶酔を覚えてしまうのか?きっと、それは、実に常識的なタイムラインで突き進んでいた自分の意識というものが、予期せぬインパクトで粉々に破壊されたのに、ふと思い返せば、粉々になったはずのその断片が、理屈というもので実はきっちりとつながっている、という内面世界に、しばし入り込んでしまうからではなかろうか。とどのつまりは、それが、どんでん返しにおける伏線の回収というやつに違いない。

 映画、とりわけサスペンスものに類するジャンルの映画において、このどんでん返しにしてやられる、という体験ほど、願ったり叶ったりのものはない。中には、どんでん返しがただの客寄せパンダのような謳い文句だけで、見た途端、ちゃぶ台返ししたくなるような、噴飯ものの、どんでん返しが、あるけれど、本作のどんでん返しは、正真正銘の正統派、誰もが安心してサプライズの妙味に浸れる映画史上のどんでん返しオールタイム・ベストには必ず名を連ねるどんでん返しのクラシックな良作だ。

 

どんでん返しのパラダイム

 そんな本作は、今なお、サスペンス映画の金字塔として燦然とその名を映画史に轟かせている大傑作「恐怖の報酬」のアンリ・ジョルジュ・クルーゾーが、知性派、ボアローナルスジャックの原作を得て監督した、サスペンス・スリラーの逸品だ、

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 そもそも、その映画におけるどんでん返しが、良質だと、認知し得る条件は厳格だ。まずは何よりもそのプロットがシンプルであること。ただ、やみくもに見ている人間を驚かせたくて、無理やりプロットを複雑に、こんがらかせている映画は、もうそれだけで失格だ。

 次に、そのプロットに呼応して、登場する人物の人数が限定されていること。登場人物がやたらと多いというだけで、たとえその映画にどんでん返しなるものが用意されていたとしても、それがすなわち、良質のどんでん返しだとは言い難い。

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 その点、本作の場合、登場人物は、小学校の校長ミシェル(ポール・ムーリス)とその妻クリスティーナ(ヴェラ・クルーゾー)、そしてミシェルの愛人ニコール(シモーヌ・シニョレ)のたったの三人だけ。

 クリスティーナを差し置いて、ミシェルとニコールは、資産家のクリスティーナが病弱なのをいいことに、半ば公然と不倫を続けている。しかし、ニコールも横暴なミシェルに嫌気が差していて、ニコールはクリスティーナと共謀し、ミシェルの殺害を持ち掛ける。

 女同士が結託しての夫殺しという、きわめてシンプルなプロット構造とこのキャラクターからどんな化学反応が起きるかは、後のお楽しみ。

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どんでん返しの作法

 しかしながら、どんでん返しを正しくたしなむためには、それなりの作法がある。まず、どんでん返しに過度な期待をしないこと。それこそ、襟を正し、その映画にどんでん返しなぞ存在しないような無心の境地で、映画と対峙する。

 映画についてのたまうものは、やたらとその映画を褒めたがるもの。それを真に受けて、どんなどんでん返しが待ち受けているかとワクワク期待しながらその時を迎え、落胆しては、天を仰いだ人も多いはず。たとえ、その映画が傑作だとブログなどで褒めちぎられていても、信じてはならない。ひとえに、どんでん返しをめぐっては、その映画を語るものと、そのコメントを聞いて、くだんの映画に興味を持ち、手に取って見ようとする鑑賞者の間で、一種の丁々発止の騙し合いともいえる関係があることをお忘れなく。

 とりわけ、本作はクラシックゆえに、それなりに割り引いてご鑑賞のほどを(笑)

 

どんでん返しのヒストリア

 誰もが大好きどんでん返し。映画好きなら、必然的にどんでん返しのマイベストなるものを胸に秘めているもの。かくいう負け犬もと言いたいところだけど、思い返せば、意外と少ないことに思い当たる。

 たとえばもっとも有名なのはあのコン・ゲーム映画の傑作「スティング」、更にはヒチコックのあの「サイコ」。少し新しいところで、「ユージュアル・サスペクツ」、それにフィンチャー出世作「セブン」といったところか。最近ではロビイストにスポットを当てた政治サスペンス「女神の見えざる手」が、なかなか見事などんでん返しの粋を味合わせてくれた。

 各人各様、こだわりがあるはずのどんでん返しマイベスト。あなたのマイベストは如何なものでしょう~

負け犬の大スター同士の本番ファック!?一大巨匠の猥褻なるエロき遺書「アイズ・ワイド・シャット」

至る所にヌード!あらゆる場所でFUCK!おまけに人生最後の言葉もファック!宇宙の啓示を描いた一大巨匠の猥褻きわまりない人生の遺書

(評価 84点)

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猥褻な遺書

 人生最大のタブー。B級フィルム・ノワールの時間軸を換骨奪胎し、核による世界の終末を笑い飛ばし、宇宙を旅する人類の幼年期の終わりを壮大に描き上げ、ホラー映画というジャンル映画を自分の美意識の別世界に根底から塗り替えてみせた、映画史上に刻印のように刻まれた巨匠スタンリー・キューブリック。そのキューブリックの図らずも遺作となってしまった本作は、実はキューブリック本人にとっての人生最大のタブーを破った作品でもあった。

 本作の原作は、シュニッツラーの中編小説「夢語り」。キューブリックにとってまさにライフワークともいうべきこの小説の映画化の最大の壁となったのが、キューブリックの長年連れ添った奥さんクリスティアーネだった。実はクリスティアーネはキューブリックに対し、「夢語り」の映画化を、自分たちの夫婦生命を賭けてまで禁じていた。一体、それは何故?おそらく、それはキューブリックの完璧主義が伝染したかのような、ある種の、夫婦間の潔癖主義だったような気がするのだ。

 映画というメディアは、その客商売としての宿命上、暴力とセックスと相場が決まっている。だが、キューブリック映画の最大の特徴は、暴力はともかく、セックスが欠落していること。まるで禁じ手のように封印してきたセックスという題材を、キューブリックが夫婦関係の亀裂すら厭わず果敢に映画化したのが本作だった。かくして、人生最大のタブーを自ら打ち破ってみせただけの凄味に満ちた作品が出来上がった。人間のセックスというものへの本能的な欲望にまでメスを入れてみせた巨匠、最後の遺作とは・・

 

狂い咲きの乱交の館

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 人生のタブーを破ると開巻から宣言するかのような、ファースト・カットの、いきなりのキッドマンの全裸の背面美ボディに仰天した直後、冒頭からの、キューブリックならではの、フレームの隅々までにテンションが張り詰めたその映像の冴えに、まずは驚かされる。ニューヨークの開業医ビル(トム・クルーズ)とアリス(ニコール・キッドマン)の夫婦は、友人に招かれたパーティに出向こうとしている。そして、向かったパーティ会場は、さながら「シャイニング」のオーバールック・ホテルのボール・ルームのような、まばゆい光に満ちた幻惑の世界。

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 キューブリックならではのシンメトリーの構図がふんだんに多用される、幻覚を催すほどの本作における映像の数々は、それまでのキューブリックの集大成であるかのように、とにかく際立っている。そして。ここでもまた画面に表出されるのがヘア丸出しの全裸のヌード。別室でドラッグの副作用で危篤状態となった全裸のままの女性を介抱した後、ビルは、医学校時代の同窓生ニックと出会う。

 数日後、急逝した患者を見舞ったある夜の帰り道、ビルはニックがステージを務めるバーに立ち寄り、そこでニックから、とある秘密クラブのことを知らされる。そして、良識人のはずのビルはいかがわしい興味から、危険な世界に足を踏み入れていく。

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 ステディカムキャメラによって対象物を捉える、滑らかなその動き、そしてむせかえるほどの色彩と、溢れかえるまばゆい光、その超絶的なほどの映像に幻惑されるうちに覚えるのが言い知れない恐怖感。本作には、美しさとともに、そんな底なしの恐怖感に満ちている。それはきっと、人間のもっとも根源的な関係であるはずの夫婦というものに絶対不可欠の、秩序や調和といったものが脅かされ、破壊されることへの人間の本能的な怯えにほかならない。

 しかし、それを破壊してしまいたいという、衝動にかられるのもまた事実。かくして、ビルは誘惑に抗しきれず、ニックからフェデリオというパスワードを聞き出し、秘密クラブの会合が開かれている館へと向かう。

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 そして、その館こそ、色々なセレブたちが、自由に快楽を謳歌する乱交の館だった、というわけで、このくだりでは、まさにキューブリックが狂い咲いたかのように、いたるところで人間が乱交する様子が描かれる。まるで誰もがペントハウスの雑誌から抜け出てきたような女たちの美ボディに目が釘付けにもなるこのシーン。キューブリックが、長年の連れ合いの尻に敷かれ、抑圧されてきた欲望を存分に開放し、復讐がてら愛妻に、のたまわっているようなキューブリックの得意気な顔が目に浮かぶのは、この負け犬だけだろうか。

 

本番ファックと人生の墓碑銘

 本作公開時、映画館は一杯。満員の客席で負け犬は本作を固唾をのんで見ていた。実は当時、実生活でも夫婦だったトム・クルーズとキッドマンが本編中、本番セックスをするとか、しないとか、そんな風のうわさが流布していた。映画館の客席を埋めた客の大半もその下心に釣られて詰めかけたものではないかと、薄々思っていたのを憶えている。

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 確かにふんだんに登場するヌードとセックス・シーンに、乱交シーンが繰り出される前半と中盤(特に姿見の前で、全裸でメガネをかけて立つキッドマンは生唾もののエロさ)に、そうした嗜好が満たされた客の多くが、夫婦関係にスポットを当てる後半部分には、さすがに困惑しはじめ、ラストのキッドマンの「FUCK!」の一言で暗転する本作のエンディングには、誰もが目を丸くして、劇場を後にしていたと記憶する。

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 それにしても、人生最後の遺作のラストのセリフが「FUCK!」とは。キューブリックという人は、今思えば、巨匠には違いないが、神話に出てくる、あらぬいたずらを繰り返して人々を驚かせるトリックスターのような存在だったような気がする。そのヴァラエティに満ちた作品群そのものが、いたずらの数々だったと言えなくもない。

 厳粛なはずの墓碑銘が「FUCK!」。この挑戦的で攻撃的な姿勢、どこか見習いたいものですよね~

負け犬も歓喜!オタク魂炸裂の渾身のデビュー作「デスマシーン」

ポンコツもなんのその、パクリのバッシングなんて気にしない!とにかくがむしゃらに好きなものをぶち込んで突っ走る、その精神こそが大事!

(評価 72点)

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オタクの流儀

 まったく新たな才能が、とにかくやみくもに自分の好きなものをすべてぶち込んで無我夢中に作り上げたデビュー作を見ることは、映画フリークの無上の喜びの一つと言っていい。本作は、あの大傑作「ブレイド」の超絶的アクション演出で、負け犬のみならず、世の全ての映画フリークを腹の底から唸らせてくれた、スティーヴン・ノリントンのデビュー作。そして、その俊英ノリントンが、自らのオタク魂の全てを注ぎ込んだような、すがすがしいまでの気概を感じさせてくれる一作だ。

 最初にことわっておくと、本作の出来自体、少なくとも上出来とは言い難い、それに、ストーリーからルックス、ディテールにいたるまで、あらゆるものが、本作は、パクリパーツのスクラッチ・アンド・ビルドと言ってもいい。でも、パクリだ、モノマネだ、といったバッシングなぞどこ吹く風で、やみくもに突っ走るそのスタンスに、とにもかくにも、ひとまず嬉しくなってくる作品なのだ。

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パクリ天国

 本作はそもそも劇場未公開。でも、ビデオスルーでリリースされた当時、とにかくイキのいい作品として、怒涛のように垂れ流される玉石混交のB級作品群の中でもひときわ目立っていた。そんな本作は、冒頭から、どこかで見たようなポンコツそのもののコンバット・ギアを装着したセミ・サイボーグが登場するパクリ御免の世界だ、

 制御不能でいきなり殺処分されるそのセミ・サイボーグは、兵器メーカーのチャンク・コーポレーションのプロト・タイプで、チャンクは人道主義の左派や世論から、人間を殺人マシーンに変える、その製造計画の阻止を迫られている。チャンクのCEOケイルは、世論を受けて開発担当者のジャック・ダンテ(ブラッド・ドゥーリフ)を解雇しようとするが、ダンテは自らプライベートに開発していたアルティメット・モデルのデスマシーンを放ち、ケイルを殺害しようとする。

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 しかし、その頃、ハッカーのグループがチャンク本社に忍び込み、機密情報を奪うためビルの内部を荒らしていた。かくして、巨大な密室と化したビルディングで、サイコパスのダンテの性格が乗り移ったような殺人マシーンとケイル、そしてハッカーたちの一夜の攻防が幕を開ける。

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 一夜だけの攻防戦、閉鎖空間での籠城モノ、モビルスーツにプロテクター、そしてハードな重火器に暴走する自足歩行ロボと、本作は、オタク印の映画フリークが涎を垂らしそうなスクラッチ・パーツをぎっしりと詰め込んで、これでもかとばかりに繰り出して来る、そのスタンスがとにかく心地よい。

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 見てくれのルックスは、誰が見ても、もう「エイリアン2」そのもの、華奢なケイルが、重火器をデスマシーン目掛けてぶっ放し、防戦一方だったハッカー一味が、プロテクト・アーマーを装着するや、俄然、心身ともにサイボーグと化してデスマシーンに立ち向かうくだりの、「エイリアン2」そのままのパクリには、唖然とするよりも微笑ましく、逆に愛しくなってくる。おまけにジャック・ダンテ(ジョー・ダンテ?)、リドリー・スコットサム・ライミと、出てくるキャラクターたちの役名に、オタク・カラーの有名監督たちのネーミングをずらりと列挙してくれれば、もうそれだけで拍手したくもなる。

 

ブレイド」への系譜

 本作には、ノリントンが「ブレイド」で見せた洗練ぶりは無い。それよりも本作にあるのは、とにかく無鉄砲な不器用さだ。それでも、イントロや、随所にその片鱗を見せる編集のセンスには、後の「ブレイド」の超絶的な技巧につながる萌芽が、たしかに垣間見える。

 映像作家の、個性のタッチが芽の吹くような瞬間と、その変遷ぶりに立ち会える、それもまた映画フリークの無上の喜びなのです。そんな楽しみをフル・スペックで味わえる、本作はまさに通好みの作品というべきか。

 

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